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第5話 俺と記憶と懸念事。

 俺は、神札タロット争奪戦に参加し、願いを叶える事を決意した。


 俺の願いが何なのか、俺自身もはっきりしない部分はあるが、それは追々考えて行けばいいだろう。



 大切なのは先に進む事だ。


 足を動かす事だ。


 前を向くことだ。


 意思無き所に、進むべき道は無い。



 そう決めたのならば、俺の記憶にある『アルカナ・サ・ガ』の情報をできる限り詳しく思い出す必要がある。

 そもそも神札タロット争奪戦……ゲーム内では神札タロット戦争と呼ばれていたものが、いつ行われるのか、だ。


 開戦の期日が分からなければ、参加する事さえも危うい。

 思い出して置いて、もう終わった出来事だったという可能性もあったが、それは杞憂だった。




 なぜならば、ゲーム中には俺こと、『ヴァサゴ・ケーシー』も登場していたのだ。




 それもただの登場人物ではない。


 主人公ではないが、ある意味それに次ぐ重要人物。


 一定数の神札タロットを集めると現れる、22枚目の保持者。

 どうシナリオを進めようと、必ず最後の壁として主人公の前に立ち塞がる存在。


 所謂「斃すべき敵(ラスボス)」、それが俺に与えられた役割ロールだ。



 これを思い出したとき、俺は頭を抱えた。



 俺が最後の関門じゃねーか!



 というか、俺が『ヴァサゴ・ケーシー』というボスを忘れる事なんてありえない。

 前世で産まれて初めてクリアしたRPGの、それも倒すのに物凄く苦労したラスボスの事を忘れるわけがないのだ。

 あの激闘の日々は忘れたくても忘れられない。


 なんせ倒すまでに、その年の夏休みを丸ごと捧げる羽目になったのだ。

 俺の夏休みを返せ!


 当時はまだ攻略WIKIみたいなものも無く、紙媒体の攻略本くらいしか無かった。

 何故かそういう紙媒体の攻略本って、ラスボスとかラストダンジョンの情報載ってなかったんだよね。


 『この先はキミの目で確かめてくれ! 』や『ここから先は自分の目で確かめてみよう! 』とかふざけんなよ!?

 こちとら少ないお小遣いはたいて買ってたんだぞ!!!


 『大丈夫?ファ〇通の攻略本だよ?』

 全く大丈夫ではない。

 小数点以下でも盗めないものは盗めないのだ。

 

 まぁ、ラスボスの情報を載せなかったのはネタバレを防ぐためなのだろうけど、そのせいで当時小学生だった俺は相当に苦労した。

 本当に苦労した。

 嫌がらせかと思ったレベルだった。


 ……思い出してみると、最終的に父親の手を借りた気がする。

 レベル上げとか、手伝って貰ったっけ。

 忘れててごめん、父ちゃん。



 そう言う意味では、『アルカナ・サ・ガ』というゲームにはとても思い入れがあるし、自分と名前の似ている憎きラスボス『ヴァサゴ・ケーシー』に転生したのも頷ける部分も……いや、無いわ。

 


 思い出深いゲームではあるが、好きなゲームかと言われると疑問符が付く。

 次にやったRPGがバランスの取れた名作で、そっちの方は自力でクリアできたんだよなぁ……。


  『アルカナ・サ・ガ』は色々バランスが狂ってたし、小学生の時の俺でも「あれ?」みたいな所があった。

 まぁ、それでも熱心なファン(クソゲーハンター)もいた筈だから、俺じゃなくてそいつらを転生させてほしかった。

 もっとこう、良い感じのゲーム世界は無かったのだろうか?

 モッテモテになるギャルゲーとかの方が良かった……!




 だが、この世界はまぎれもなく現実だ。



 確かに思い返してみれば、『アルカナ・サ・ガ』に符合する部分は多い。

 地名もそうだし「スキル」や「魔術」に関してもそうだ。

 思い返せば心当たりのある単語ばかりだ。


 だが、違う所……いや、ゲームでは描かれなかった事の方が多いのだ。

 ゲームでは描写されなかった寒村や、存在すらしていなかった南方都市国家群など沢山の場所が存在し、勿論そこに住まう人々もいる。

 


 俺は知っている。

 この世界の人々は、生きている。


 いい事があれば喜び、理不尽な目にあえば怒り、悲しいことがあれば泣き、面白い事があれば笑う。

 そんな血の通った人々が居て、それぞれがそれぞれの人生を歩んでいる。


 少なくとも、この世界に産まれ落ちて過ごした日々はそうだった。



 だから、ここをゲームの世界だと俺は断じる事はできないし、したくはない。

 所詮ゲームの世界だと軽んじたりしたくはない。


 それでも、俺は俺の願いを叶える為に、『アルカナ・サ・ガ』の知識を活用しなくてはならない。


 これはある意味、高精度の未来予知だ。


 上手く使えば、かなり有利に立ち回ることが出来るだろう。


 それに、俺がラスボスである『ヴァサゴ・ケーシー』であることもかなりのアドバンテージだ。

 とにかく『ヴァサゴ・ケーシー』は強い。

 そりゃあラスボスだから強いに決まっているのだが、間違いなく初見で勝てるボスではない。



 純粋に攻撃力や体力がバカ高いのもあるが、彼が持つ神札タロットの能力が極めておかしいのだ。 



 そのせいで一部では『RPG史上最も理不尽なボス』とも言われていた。


 まぁ、調整に失敗したという可能性もあるが、制作会社としては周回前提のバランスだったのかもしれない。

 何人の小学生を泣かせたか分からないボス、それが『ヴァサゴ・ケーシー』だ。



 勝ち抜く強さと情報。

 両方とも揃えている俺は、間違いなく勝利に最も近い参加者だろう。


 それでも懸念される点は幾つもある。


 一つ目は、俺以外にも転生者がいる可能性があるという事だ。


 むしろ俺以外の転生者がいないなんて、そんな馬鹿なことがあってたまるか。

「間違いなくいる」と言う前提で動くべきだろう。


 下手したら、参加者21人全員が転生者の可能性すら存在する。

 そうなれば、ゲーム知識によるアドバンテージは無くなるし、それを逆手に取った罠を仕掛ける必要がある。

 万が一そうならば、状況がややこしすぎて展開が全く読めなくなるな……。

 正直、考えたくない。


 それにもし全員の中身が日本人なら、なんだかんだ言って最終的には殺し合いになる可能性が高いと考えるとぞっとしない。

 ……戦場で殺しには慣れたが、俺は果たして同郷の人間を手に掛けることが出来るのだろうか?



 二つ目は、正規のストーリーでも「ヴァサゴ・ケーシー」は結局、勝利者になれなかったという点だ。


 もしこれが、ゲームのようにあらかじめ決められたストーリーをなぞるだけならば、俺は最後に殺される事になる。

 

「ラスボス」とはそう言う存在なのだ。

 どれだけ強かろうが、敗北が決定付けられた存在だ。


 流石に現実となった今は、そんな理不尽なことは無いと思いたいが、こればかりは始まってみないと分からない。

 ただ、最後に複数枚持った相手と対峙する事になるのならば、その1戦に勝つだけでそいつの持つ札全てが手に入ることになる。


 それはそれでメリットだと思うのだが、あまりにもリスキーすぎる。

 大体、複数枚持って強化された奴相手に簡単に勝利できるなどと楽観視なんてとてもではないができない。

 

 闘争とは実力以外の要素も絡んでくるものだ。

 どれだけ敗北を重ねようが、最後に勝てばそれで逆転が狙えてしまう。

 俺はそう言う世界で生きてきた。



 ……やはり俺は、積極的にストーリーを破壊する方向で動くべきか。



 とにかく、情報が足りない。

 全く足りない。 


 まずは『アルカナ・サ・ガ』について、俺が知っている全てを書き出してみる必要がある。

 起きるイベントから逆算して、開幕する時期を特定するのだ。


 もし時間に余裕があるのならば、事前に準備できることもあるだろう。



 「死を回避」し、「願いを叶える」。


 「両方」やらなくっちゃあならないってのが「ラスボス」のつらいところだな


 覚悟はいいか? オレはできてる。



 さぁ、生き残りを賭けた戦いだ。

 俺は絶対に、やり遂げて見せる。



 たとえその道が、どれだけ血に塗れていようとも。





 その後、俺は記憶を頼りに、知っている情報を紙に書き出していったのだが……。

 『アルカナ・サ・ガ』の情報が記載された《《膨大な紙の山》》を前に、俺は呆然としながら呟いた。



「ふざけるなよ……最新のwikiの情報、全部頭に入ってるじゃねぇか……」



 勿論、俺はwikiの丸暗記なんて事をした覚えはない。

 最新……20××年6月5日までに更新された『アルカナ・サ・ガ』攻略wiki、その全ての情報が俺の脳内に焼き付けられていた。


 これ以上ない『何者か()』の介入の痕跡に、俺は震えた。



 なぁ、『神』よ。

 アンタは一体、俺に何をさせたいんだ?


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