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第2話 俺の前世と今生と。

 俺、ヴァサゴ・ケーシーは転生者だ。


 いや、それも正しく言うならば「おそらく」が付く形になる。



 ヴァサゴ・ケーシーとしてこの地に産まれ、かれこれ30年程経つ。

 俺の認識では、転生前の「俺」よりこの世界で過ごした年月の方が長い。


 そもそも前世の俺はどうやって死んだのか、と言う大切な記憶が欠けている為、本当に転生なのかも不明だ。

 欠片も思い出せないのは、死の恐怖に対する心の防衛本能なのかもしれない。

 案外、何らかの事故で昏睡状態になり、その時に見ている夢と言う可能性もあるな。


 何にせよ、俺の記憶の中に存在する「日本という国で平成に産まれて令和という時代を生きた男」の存在を証明する物が何もないのだから仕方がない。

 証明できない事を主張しても、それはただの狂人だ。



 とにかく、気付くと俺はこの世界にいた。



 異世界転生の小説やアニメは読んだことがあったが、まさか自分がそうなるとは予想もしていなかった。

 いや、俺も考えるくらいしたけど、そう実際なってみるとマジで大変だからな!?

 手元に情報を得る為の機器が無いというのは、想像以上に心細いもんだぞ。


 定番の神様との対話や、チュートリアル的な会話も無し。

 まぁ、最近?はそう言う流れもすっかり陳腐化してしまっているが。


 転生に気付いた時の俺の気分は、オープンワールドのゲームに、何の説明も無しに放り出された時の気分と言えば一番わかりやすいかもしれない。

 何から手をつければいいかサッパリ分からん。


 ただ、俺の場合は命が掛かっていたから、実際の絶望感はそれ以上だった。


 とにかくなんの説明も無しだった。



 俺が俺としての自己を認識したのは、とあるスラムのゴミ捨て場を漁っている時であった。

 まぁ、幼い頃からぼんやりと、なんか変な記憶があるなみたいな感覚はあったが、この身体に馴染み切ったのがそのタイミングだったのだろう。


 だから俺は少し混乱はしたものの、取り乱すような事もなかった。

 一応、この身体で数年を生きて来た訳だからな。




 この世界での俺は、戦災孤児だった。

 まぁ、まともな親がいるならは、子供が一人でゴミ箱なんて漁っているわけがない。


 この世界は実にハードで、孤児なんぞ周りを見ればいくらでも居たし、珍しくともなんともない。

 この身体の両親の記憶も朧気で、どちらかと言うと、日本で生きていた時の両親の顔の方がはっきりと思い出せてしまう始末だった。


 すまんな、ヴァサゴの両親。

 ウソかホントか分からないが、元々はどこかの国の貴族だったと母が言ってた気がするが、証明する物は一切存在しない。

 せめてそれを証明する物を残せよ。


 そんな状況だったんで、俺は異世界転生に気付いたものの、とりあえずは生きる事に注力せざるを得なかった訳だ。

 寝床は崩れかけたスラムの廃屋、今日の飯にも事欠く始末だったからな。


 人間は明日を生きるには、今日を乗り切らなきゃいかんのだ。





 その日から、俺はヴァサゴ・ケーシーとして生きて来た。




 当たり前だが苦労の連続だったよ。


 今更ながら前世(?)の両親に感謝したさ、育ててくれてありがとうってな。

 ロハで安全な場所で眠れて、飯を食わせてくれて、その上勉強までさせてもらえる。

 至れり尽くせりと言う奴だ。


 それが全て、この上ない贅沢だったって事を、俺はこの世界で身をもって知った。

 親孝行、したい時には親は無しってな。

 いや、亡くなったのは俺の方なんだろうけど。


 前世(?)の知識は、生きていく上でとても役に立った。


 と言っても道具の開発やらなんやらは、先立つものがないので無理。

 定番のオセロなどのアイデアは、似たような物があったので駄目。


 他にも色々考えてみたが、どれもこれも実現が難しい。


 そもそも販売するための窓口もないし。

 何ともハードモードであった。


 俺は結論として、そういった「現代知識チート」は当面の間手を出さない事に決めた。


 まずはこの世界に基盤を作る、何かを探したり作ったり成し遂げたりするのは、その後だ。


 なんとしても生きる。


 生き残ってやる。


 折角、異世界転生なんて稀有な経験をしているのだ。

 思う存分、この世界を楽しんでやろう。


 あの頃、俺は気楽にそんな事を考えていたんだ。






 幸いな事に、ヴァサゴ・ケーシー君の肉体は実に優秀であった。


 身体つきも同世代の子供と比べて一回り大きく頑丈。

 内臓も強く、多少悪くなったものを食べても平気であった。

 また、筋肉質で骨格もがっちりしているため、成長するとかなりゴツくなることが予想できた。


 そんなパワータイプの肉体を持つヴァサゴ・ケーシー君であったが、おつむの出来も悪くない。

 一度聞いたことは忘れないし、自分で言うのもなんだが頭の回転も速い。

 案外、貴族の血を引いているというのも、嘘ではないのかもしれない。


 但し、この世界での教育を受けていない為、常識はない。

 まぁ、こればっかりは仕方がない、頭の良さと教育は別物だからな。



 どう考えても、前世の俺よりもハイスペックであった。


 あ、前世での俺の名前は「真砂まさご 圭史けいし」という。

 今の名前と響きが似ており違和感なく馴染めたのだが、この点に何者かの作為を感じる。

 いやまぁ、偶然の可能性もあるんだけど、さすがになあ?


 とにかく、前世でこれほどのスペックがあれば、きっといい人生を歩めていただろうなあと思う程、ヴァサゴ・ケーシー君はハイスペックだったのだ。



 この頃は、この肉体が異世界転生に付き物である「チート」なのかなあ?などとぼけた事を思っていたものだ。

 チートにしては多少ささやかな気がするが、生き残ってこの世界を楽しむと言う俺の目的には沿っており、概ね満足していた。


 いずれ旅に出て、世界を見て回るつもりだったからね。




 まぁ、そんな割とチート染みた存在であった俺が、街の孤児たちの顔役になるのは既定路線と言っていいだろう。

 別に意識してそうしようとしたわけではないのだが、平和な日本で育った俺としては、どうしても子供が困っていると助けてしまうのだ。



 中途半端な優しさというか、日本人としての良識と言えば良いのか。

 なんだかんだで日本人なら、自分に余裕があるなら似たような事になるんじゃないかな?



 腹を空かせていれば自分の分を分け与え、病気で苦しんでいれば看病してやる。

 よく分からない知識を持っており、大人顔負けの交渉術でスラム街のマフィアとも渡り合う。

 疫病が流行した際には彼らと組んで防疫に励んだものだ。

 手洗いうがいの習慣だけでも大分違うからね。

 実際、俺達の縄張りは明らかに被害が少なかった。

 


 そんなことしてれば目立って仕方ないわな。

 頼られると無下にできないお人よしのガキ大将、それが俺に対する評価であった。

 横暴な事もしなかったから、街の人にも割と受け入れられていたと思う。

 むしろ、子供達のまとめ役として歓迎されてた節もあった。


 それから数年の間、偶然知り合った権力者からの無茶振りや、マフィアの抗争とかにも巻き込まれながらも、子供達を率いてそれなりに暮らしていた。


 マックスはやんちゃだが、きちんと教えれば納得してくれる。

 ペーターは引っ込み思案だが、とてもいい子で皆のお兄さんだ。

 アルフレートはまだ小さいが、みんなに一目置かれている。

 ペトラは優しく、みんなのお姉さんで……───



 気付けば俺は、幼い孤児の保護者のようになっていた。


 彼らを保護したのは成り行きであったが、やはり一緒に苦楽を共にすれば、情も湧く。

 情が湧けば、力になってやりたいと思うようになった。

 所謂、絆されたと言う奴だ。



 でも、仕方がないじゃないか。

 俺には一人で生きていけない子を放置する事なんて、とでもできない。



 いつか彼らが大きくなったら、一緒に世界を見て回るのもいいかと思っていた。





 そんな俺に転機が訪れた。


 戦争が始まったのだ。

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