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5話:悪い人たち


「で?言っちゃったんだ?担ぎ上げて王太子にしますーって。あははっ、よく怒られなかったねそれ。殿下持ち上げて、利用しようとする気満々じゃん。普通キレるでしょ。」


気安い調子でいうのは、北部3貴族の一つ。トルデシア公爵家の次男、カタルク・トルデシアだ。一見、茶髪に亜麻色の目を持った可愛げのある顔だちをしているが、その本性は血に飢えたオオカミのように凶暴性を秘めている。


お父様に買収された北部の騎士団に所属し、今はそのその北部騎士団の応接間にいる。

手に持っていた紅茶をもとの位置に戻し、そうはならなかった理由を話す。


「慎重な方なの。すぐに私をどうこうしたりはしないわ。」


もっと己の権力に胡坐をかき、横柄で取り入りやすく、だましやすい人なら良かった。それならわざわざこんな危ない綱渡りをせずに済んだものの。


「ふーん。まいいけど。でもさ、疑り深いのならこれからやりずらいんじゃね?目的言っちゃてるのに、ラルが言ったその通りに動かないでしょ。」


「そうね、これから殿下は私の言うことをちっとも聞かないでしょうね。でももうそれでいいの。だって、初めから勝手にお父様はハロルド殿下を王太子にさせようと計画していたもの。少しでもそれが上手くいくように、お父様は殿下に近づくよう、私に言ったのだから、大して変わらないわよ。」


「ははっ、うまくいかなかったんだねー、殿下に気に入られよう作戦。まあ明らかにラルってそういうのヘタそうだから予想はしてたけど。」


―図星を突かれた感覚がするのはどうしてだろう。確かに上手くいかなったけど。そうだけど、どれだけ殿下を褒めても、全く靡かないから!

人心掌握が上手いわけではないにしても、殿下は少し、いやかなり無愛想すぎるのだ。あれでは誰がやっても同じ結果だったはず。


「でも殿下の近くに入れるのはいい事よ。なにか動こうとしても分かる位置にいるのは重要よ。逆に殿下も私が何か怪しい動きはないかどうか見るために近くに置いておくはず。」


「互いが互いを監視してるってこと?用心深い殿下が隙を見せるのはないにしても、ラルはなー。ははっ、どうだろうね。」


子馬鹿にするような笑いをしながら言うカタルク。それにラルは失敗なんてあってはならない。これは私の人生がかかっているんだから。と強く心に唱える。

―カタルクだってそうなはずなのに、どうしてこんなに他人事のように扱えるのだろうか。


「やって見せるわ。それができないと、終わりね。私の人生。・・・あなたも同じはずよ。」


「俺は今が楽しければそれでいいから。それにこれからビックイベントが起きちゃうってさ。ワクワクしちゃうよ。」


口角を上げ、目を細めてそう話すカタルクは今にも人を殺しそうなほど、殺気をまとっていた。ゾクリと肩を少し震わせた。

――――――――――――――――――――――――――――――


家の屋敷に戻りながら、カタルクとの会話を思い出す。

きっとあの人はどこまでも刹那的に生きているのだ。だから、私たちがこれからどんな悪行を行うか分かっているにもかかわらず、あんな態度でいられる。


「――ビックイベントなんてよく言うわ。これから謀反を起こそうとする人の言い方じゃないわね。」


これから自分たちがどれほど罪深く、背徳的な行いをしようとしているのかを確かめるように、また自分に言い聞かせるように呟いた。


父の本当の目的は、自身の名誉回復などではない。そんなことを思うのであれば、初めから周辺貴族との仲を裂く真似なんてしない。


父の本願とは、


国王への反逆。


計画の内容は、ハロルドとセルデンを対立させることで、情勢をかき乱し、国王の力を弱らせ、その隙に反乱を起こす。

これが成功すれば父の本願は叶い、失敗すれば死刑。

まさに、私の人生をかけた大勝負。


自分で言っておきながら、その計画の無謀さに心底ため息が出る。

確かに上手くいく可能性はある。

でもそれはほんのわずかな希望にすがるようなものでしかない。


まず圧倒的に兵力が違うのだ。北部騎士団は取り押さえたが、それ以外の戦力は皆無に等しい。一流の騎士と魔術師で構築されている王宮近衛兵にいったいどの程度戦えるのか。


こんなこと誰でも考えればすぐにわかる。

―無謀だと。


このままだと私はほぼ間違えなく断頭台に上ることになる。

だが、父はもう止まれないとこまでやってきている。殿下が学園を卒業するタイミングで反乱を起こすのだということまで決まっている。ならばやるしかない。


重要なのは内政を乱すことで、どれだけ国王の権力を衰えさせることに成功するかだ。


カタルクの手前、ハロルドの意思関係なく好きに動くとは言ったが、ハロルドに王太子なろうと思ってもらわなければ困る。父の力だけで貴族がハロルドとセルデンに完全に二分することはできないだろうから。


結局のところ、私がハロルドをその気にさせなければならない。まずはどんな関係でもいいから、私の声を聴いてもらわなければならない。




「-―殿下に気に入られなければ、私は学園の卒業後殿下に《殺される運命》が変わらない。」




―もう殿下が卒業するまであと1年の猶予しか残されていなかった。





決して賢くはない子があれこれ考えて頑張る話。


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