2話:これまでとは違った日常の始まり
話を消したり上げたりしてたけど、バレてないからOK。
私の人生最大の勝負事
2話:これまでとは違った日常の始まり
馬車に揺られながら王宮に帰っていると
「そろそろ変装は解いておいた方が良いのでは?王宮に着きそうですし、このままだと誰かわからないので。」
そう言うのは、私の幼馴染で深い青色の髪をした公爵の息子シュード・ティグリスだ。
先ほどまでの会話があってなお、どこ吹く風といった感じで話しかけてくる。
「、、、、」
私は無言のまま変装を解く。別にその通りだと思ったわけではない。今からしようと思っていただけだ。
髪は黒髪からきれいな銀髪に代わり、服装も元に戻る。
この変装は魔法によるものだ。なのでわざわざ服を変えななくても身分相応の服に代わる。元々こちらが本来着ていた服であって、図書館での姿は全て偽りの格好だ。
そして、この変装は見破られることは絶対にない。
「やはりその格好がしっくりきます。殿下と話していると分かっていても不思議な感覚で、僕はいまだに慣れません。」
「お前が慣れようが慣れまいがどうでもいい。そんなことより明日も行くから帰りの馬車を用意しておけ。」
不遜な態度のまま告げると
「おや。明日もですか?そろそろ学園の方で試験が行われますし、よろしいのですか?」
*学園とは王立魔法育成教育機関のことで、貴族達がデビュタントを行い、本格的な貴族の職務に着く前に通う。
その学園での定期試験を心配しているようだ。
「図書館に行く理由をお前は知らないのか?あれは学ぶための場所だ。試験があるからといかない理由はないだろう。」
と当たり前のようにそう言い張る。
(あなたが変装した格好で魔法のことを学んでいたら怪しまれるでしょうから、そんなことはしないくせに。)
そう内心思うシュードであったが、それは口に出さず。
「その通りですね、殿下。」
と一言同意する。
普通の人が図書館に通う理由は陛下を言ったことで合っているだろう。
しかし、殿下の目的は違う。
「ラル様と会うために行かれるのですね。」
にこやかな笑顔でそう付け足すと、ばっと顔をシュードの方に向き
「違う!!会うためではない!」
と噛みつくように反論する。
その後ぼそぼそと言い訳がましい声が聞こえるが、そんな事お構いなしに続ける。
「ラル様と会うために行かれるのは結構ですが、場所が場所ですし、図書館に足繫く通ったとしても、お近づきになれるとは思えません。やはり、ラル様も学園に通っておられますし、学園での接点を持つ方が効率が良いように感じます。」
と次は建設的な意見を出してきた。
「いきなり王族の俺が話しかけてきたら警戒されるだろう。そんなことはしない。」
そう早口に告げる殿下は徐々に不機嫌が顔を出してくる。
「はあ、殿下ともあろう人が人と仲良くなる方法も知らないとは。いいですか、人と近づくために必要なことは会話です。初めて話す相手にいきなりも何もありませんよ。初めての会話を経て、そこから関係を深めていくのです。」
まるで子供にやさしく諭すように言ってくるシュード。
2人の間に沈黙がおとずれる。
そこでちょうど王宮の門が開く音がなり、馬車が王宮に着いたことを知らせる。殿下は何も聞かなかったようにシュードの言葉には何も答えなかった。
(まったく。困った人ですね。)
ため息が出そうになるのをぐっとこらえシュードは殿下に附いていくのであった。
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At:学園
ラルが学園の廊下を歩いていると、ラルが歩く廊下の先に何やら人の騒がしい音が聞こえた。
すぐにその正体が分かった。
殿下だ。
いやもっと具体的言うと殿下を囲むその令嬢たちの声だ。
どうやら定期試験の結果が廊下に張り出されていて、その結果に殿下を令嬢たちが次々と称賛しているようだ。
もうこの中に入ろうという気力は湧かなくなってしまった。今は、執行委員会に入ることを考えているのだ。
(考えている間に、試験期間が来てしまい、そっちに気を取られてしまったが、、、。)
この国の王子であるハロルド・アース・アッカドムルは聡明で学園の定期試験でトップから落ちたことは一度もない。このまま殿下が皇位に着けばこの国は安泰なのだろう。
そんなことをぼんやりと思いながら、そのまま試験結果には気にも留めずに素通りしていく。
逆に私はこの上位20名の名前の列に載ったことは一度もないから見る必要がないのだ。そう思いながら悲しくなるが今回の結果でもその事実は変わることはないだろう。
私の得意は別にある。
魔法だ。
定期試験が終われば、すぐに実戦魔法試験が始まる。私はこちらの方が得意であるし、魔法の力を磨くことの重要性を知っているからこちらにより重点を置いている。
決して、言い訳ではない。
そう、断じて。
「――――ラル様。」
急に私を呼ぶ声が聞こえてきて、肩をびくりとしながら声が聞こえた方に体を向ける。
姿を見て私は急な声よりもさらにびっくりした。
その声の正体が殿下の側近、公爵家の息子シュード・ティグリスだったからだ。
「何でしょうか。シュード様。」
すぐに恭しくスカートをつまみ、お辞儀をする。
平静を装っているつもりだ。内心は、何をしでかしたのかと心臓がバクバクだ。
「いえ、ただ少し陛下からお話があるのですが、附いてきてもらってもよろしいでしょうか?」
願ってもない、突然の殿下との接触の機会。
―――私にNOの選択肢はない。