1話:そうなる運命だった。
異世界なので魔法が出ます。異世界なので。
私の人生最大の勝負が始まる
1話:そうなる運命だった。
「あなたはずっと私をだましていたのね。」
平民の格好をした女性がとある貴族の男性に向かってそうつぶやく。
格好からして身分が違うのが一目瞭然のはずだが、女が話す言葉は礼儀を欠いた話し方だった。
それでも男は咎めない。
それよりも女の言葉にひどく動揺しているようだった。女はそれに気づかず、暗い表情のままなを言葉を重ねる。
「そう、私は勝負に負けていたのね。初めから、、、。人生をかけたものだったのに。」
そう言いこぼし女は涙を流した。それにつられ男の動揺は増す。そしてついに女は男にとって最も言ってほしくない言葉を発する。
「――私はあなたに殺される運命だった。」
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私の名前はラル・ロシナンテ・シュメール。
今執事からお父様から何かお話があるらしいと言われ、お父様のいる部屋に向かっている途中だ。いったい何の話なのだろう。嫌な予感がする、、。
「お父様。ラルです。」
コンコンと扉をたたき部屋の中に入る。
そこにはソファに座り、机に肘を置いて暗い表情のお父様がいた。
「-ラル。早速だが悪いが、用件を伝えさせてもらう。お前に伝えたいことはたった一つだ。」
ゴクリと唾をのむ。伝えたいこととは、、?そう思っていた瞬間。お父様は間を置かずに言葉を発した。
「-ラル。お前には殿下を誘惑してもらう。そして、殿下に気に入られるために全力を尽くせ。」
??お父様と私の間に長い沈黙が訪れる。
は?え?いきなり何を言い出すのかと思えば、殿下を誘惑?殿下ってこの国の王子ハロルド・アース・アッカドムルであっているわよね?
私に何を言い出すかと思えば、私にそんなことができると思っているのか?
「お、お父様?御冗談ですわよね?私、そんなことできませんわ!それに殿下を誘惑することにいったい何の意味があるんですの?」
と慌てて反論する。今もまだお父様の言っていることがすべて理解できていない。悪い予感があったった事はわかったが。せめてその行動にいったい何の意図があるのかと尋ねる。
「お前にそれが難しいことは知っている。しかし、殿下は聡明で優秀な方だ。これからの伯爵家のためには殿下に信頼されることが大事なんだ。わかってほしい。」
真剣な表情で淡々と語るお父様。お父様本気だ。顔を見ればすぐにそれがわかった。
「、、、、お父様が言いたいことはわかりました。ですが私に少し時間をくれませんか?気持ちを整理したいのです。」
そうゆっくり伝えるとお父様もわかってくれたようで、これ以上何も言わないようだ。
私はお父様に別れの挨拶を告げ、部屋を出て、自分の部屋に戻るとする。
「、、、」
私が殿下に気に入られるように、、、。これが今の伯爵家にとって必要なことであってこれからの伯爵家の未来のため。
目をつむってお父様に言われたことを反芻する。できる限り私はお父様の手伝いをしたい。
―――だって、私はお父様の娘なんですもの。
そう答えが出ればあとは簡単だ。行動あるのみ。
明日も学園があるから、行動するなら早速明日からだ。決意を固め、何をしようかと考える。
殿下に気に取り入るためには、いったい何をすればいいのだろう、、?
学園での殿下はいつも人、特に令嬢に囲まれている。私もその中に入っていけばいいのだろうか?それなら明日からでもできそうだ。
その他にも、何かできるのだろうかとうんうんうなりながら考えるとすっかり、夜も更けてしまった。
その他は全く思いつかなかったので、明日実際に行動してから決めてしまおうと決め、寝ることにした。
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朝早く学園に来て、殿下を待ってみる。いつ学園に訪れるのか知らなかったから、早起きしてしまうはめになってしまった。
今日で時間を覚え、次からその時間に来るようにしよう!
ん?あれ?これってもしかして迷惑行為?かしら、、。
い、いや!これは殿下と一緒に学園を過ごしたいからという一般的好意からくるものであって、はたから見てもそう映るはずだ。
コクコクと自分で納得して、さあ来いとばかりに学園の門の前に待ち伏せする
するとどうだろうか。少し時間がたってあたりを見渡すと、私と同じように門の前で待っている令嬢たちがいるではないか。これはまさか、、、。と嫌な考えが頭をよぎると
門の前にひときわきれいな馬車が停まった。そうするとどこからか微かな歓声が聞こえ、令嬢の目線の先を見てみると、、。
殿下がでてきた。
朝日の光を反射する銀髪はとても人のものとは思えなく、一種の芸術品のようだ。
そう思っていたらあっという間に殿下の周りには人だかりができた。
しまった。ひと足遅れてしまったようだ。慌てて向かっていくと、なんということでしょう。全く近づけない。
声をかけようにも他の令嬢たちの声にかき消されてうまくできない。
そして私は気づいたのだ。たぶん朝は無理!!ということに。
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――空を見ると日はすっかり落ちてもう夕方だ。
学園の離れにある椅子に座り、今日の成果を1人で振り返ることにした。
今日の成果は、、、、、
なし!!全く話せない!というか近づけもできない。
朝は無理だと思っても、各講義の休憩時間、ランチタイム、放課後、、。どの時間も人が周りにいて、全く接触できなかった。
このままだと何もできない。まずい。非常にまずい。
なんとか接点を持たなくては。
えーと。うーん、、。うん!分からないから今日はもうおしまい!
それに今日は私にも予定がある。そこに向かおうと自分の馬車に向かった。
その場所とは―――
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本がずらりと並び、その量の多さに圧倒される。
周りはすべて本で囲まれ、それは円状になっている。
中央は1階から4階まで空洞になっており、天井のステンドグラスから光が差し込んでいる。
ここは王立大図書館。国が管理経営している国内最大の図書館だ。平民から貴族まですべての人に平等に提供されており、毎日の来客数も非常に多い。
ここの一職員として働いているのが私、北部の土地を治めている由緒正しい伯爵令嬢、ラル・ロシアンテ・シュメールだ。そう、予定とはこれのことだ。
本来は父が陛下より任を受け、全権代理者として管理するはずだが、すべての職務をいとこに任せ、その補佐として私が職員として働いている。
引き受けた当初は父からそのことを言われ、なんとなく請け負ったがなかなか楽しいと感じている。ここは平民と気兼ねなく場所だし、職員ということもあり、相手も過剰なほど気を遣かわない。その居心地の良さがいいのだ。
早速仕事にとりかかろうと、私が返却された本をもとの位置に戻そうと大量の本を抱えて歩いていると、眼鏡をかけた黒髪の男が前を通りかかる。
「あ、こんにちは。また、いらしたんですね。」と私は気兼ねなく声をかける。
この平民の男はこの図書館の常連で、私たちはすっかり知り合いになっていた。
「、、、、こんにちは。」
男の返事は、非常にぶっきらぼうで、一歩間違えれば失礼にあたるのだが、この人はいつも寡黙で会話も淡白なのでもう気にしていない。
「今日はどんな本を読まれるのですか?」
そうにこやかに尋ねると、
「それよりも本を戻してきたらどうですか。それを傷ませる前に。」
私がこの前一気に本を運びきろうとして歩いた結果、前が見えなくて本を落っことしそうになっていたのを見ていたようだ。
「ははっ、そうします。(この前だって本を落としたわけじゃないわよ!)」
私は少しふんっとして、さっさと仕事を再開させようとしたら、男が手を伸ばしてきた。
なんだと思い、体が無意識にびくりとすると、
「手伝います。」
そう言い終わる前にはもうすでに半分以上の本が彼の手の中にあった。
(素っ気ない人だと思っていたけど、私の思い違いだったのかもしれない。)
作業2人ということもあってすぐに終わりそうだった。いつもこの作業をしている私と同じ速さで本を戻していたから、さすが常連、本の場所を完璧に把握しているのだろう。
「ありがとうございます。この調子だとあと少しで終われそうです。」
「そうですか。―ところで、今日は何かあったのですか?とても疲れた顔をしています。」
「え?ああ。今日は朝から一日中動いていたので、少し。しかも行動のわりにうまくいかなくて。きっとそれが顔に出てしまったのですね。」
「、、、。そうですか。」
そっけない返事をしてすぐに作業に戻る彼を見て、もう少し話を続けたくなった。
「そうなんです、、、。―もし、もしですよ?全く接点のない方と接点を持とうとしたら、あなたはどんなことをしますか?」
それを聞いた瞬間にしまったと思った。明らかに自分から人と仲良くしようとしない人に向かって、よくわからない質問をしてしまったと。
少しの沈黙の後。眼鏡の男は、考えるそぶりを見せてから、
「それは難しい質問ですね、、。そうですね、接点を持ちたいならその人が所属する組織に自分も入ることが近道だと思います。そうすれば、必然的に話をしなければいけない場合も増えるでしょうから。」
その言葉を聞いてはっとした。
それは考えてもいなかったことだ。おれに、確かに彼の言う通りで、それは有効な手段だと思えた。たしか、陛下は学園の執行委員会の会長をしていたはずだ。その執行委員会に入ることができれば、、、もしかすると、、、。
「そうですね!確かにそう方法はとてもいいと思ます!ありがとうございます!」
そう答えると。男は少しだけふっと笑って、
「いえ、別に。作業が終わったことですし、私はこれで。」
とすぐにどこかへ行ってしまったのだった。
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その方法があったと分かったことで、嬉しそうに私は職員の部屋に戻ると、
「ちょっとラル!私見てしまったんだから!あのかっこいい人に手伝ってもらってたでしょう!」
シャルロッテがすぐに私に寄って言いかかる。
「?え、ええ。シャルロッテ、何か大変なことでもあったの?何をすればいい?手伝うわ。」
どうしたのだろう?急に。なにかあったのだろうか。
「そうじゃなくって!彼、絶対あなたに気があると思うわ。だって、知っていた?彼はあなたがここにきているときだけ来るの!偶然だと思っていたけど、今回のではっきりしたわ。」
うんうんと納得したような態度で話してくる彼女に私は呆れ果てる。
「恋に落ちるためには少しの会話で十分なの?私が知っている恋と違うみたいね。それに彼は、、、どう見たって平民でしょう?ありえないわ。」
と言い放つ私にシャルロッテは
「でもかっこいいじゃない!嬉しいとも思わないの?」
とすかさず言い返してきた。
(私のこの緑の髪でどれほど苦労したか知らないから見た目のことを言えるのね。)と内心でそう思いながら、
「貴族の恋愛がどういうものか知っているでしょう?あなたも私と同じなのだから。でもあなたが身分差の恋愛に興味を持っているなんて以外ね。」
シャルロッテはそんな夢見がちな人ではないと思っていた。彼女は私よりもずっと貴族らしいから。
「知っているからこそよ!だって、自由に恋愛をするなら今しかないじゃない?平民の誰かが、私と恋をして禁忌とされる結婚を申し込んだら私は思わず頷いてしまうかもしれないわ!」
そう熱弁する彼女に、
(どうやら最近流行った身分差の結婚の恋愛小説にはまったらしいわね。)と私はやっとシャルロッテの言いたいことが分かるとすぐに自分の仕事に取り掛かった。
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(もう時間だな。今日はここまでにするか。)
眼鏡をかけた男は時計を見て本を閉じ元の場所に戻す。
ここにはほぼ毎日来てはいるが、本を持ち帰ったりしたことはない。ここよりも本がある場所を知っているからだ。
図書館を出て少し離れた人通りの少ない道に歩き出す。そこで1つの馬車を見つける。
「お戻りになられましたか。」
その前に立っていた御者が頭を下げる。
中に入ると深い青色をしたいかにも知的そうな人物がいた。座っていても身長が高いことが分かる。
「なんで、馬車にいるんだよ。」
黒髪の男が嫌そうに顔をしかめる。それに反してもう一方の男は楽しそうに
「何を言っているのですか。これは私の馬車なんですから当たり前でしょう?」
とにこにこ笑っている。
「迎えに来るのは馬だけで結構だ。」
と軽く睨まれたが男の表情は変わらない。
「で、どうだったのですか?彼女とはちゃんと話せたのですか?」
男の顔に先ほどまでの笑顔と少しからかいを含んだ表情で尋ねる。
「お前に話すことはない。」
ふんっとぶっきらぼうに返し、目をつむる。どうやらこれ以上会話をしたくないようだ。それをくみ取った長身の男はこうつぶやく。
「―そうですか、残念です。殿下。」と。
最後まで書き切ることが難しいとよく言われるので頑張って完結してみせます。ぜひ読んで楽しんでいただければ嬉しいです。
ハッピーエンドが好きな作者なので最後はもう決めています。