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「アーバスノット嬢が王太子の婚約者ということは、それだけ優れているということでしょうか」
「小さい頃は我儘でどうしようもなくて母の形見を奪おうとしてくるようなヤバい女だったけど、アーバスノット公爵家は家格が最も上で財力もあるから王太子の婚約者になって不思議ではないわ。他の家門は似たり寄ったりだったし」
「トゲしか見当たりません」
イライアスが出かけてケントは残った。エレインは手紙を手の中でくるくる回しながら露骨に嫌そうな表情を隠さない。
「主がこう言っていました。エレイン様は荒々しい時が一番魅力的だと」
「やめてよ、人を暴力女みたいに」
「主との出会いも似たようなものだったではないですか」
エレインはふんっと鼻を鳴らす。
「あれはあっちが悪いのよ」
「はい。エレイン様が怒るのは大体、おおよそ、絶対100%主が悪いです」
「どれなのよ」
エレインは笑いながら手を振った。手の中で手紙をもてあそんでいたことを忘れていて、手紙が床に滑り落ちる。ケントは拾いながら再度聞いた。
「それで、アーバスノット嬢について教えていただけますか? 正直、帝国民からすれば離れた国の王妃が誰になるかなどあまり関係がありませんが」
「それはそうね。帝国は他国を恐れる必要がないほど強大だもの」
あのつかみ合いの喧嘩をしたお茶会が運命の日だった。
そこでセラフィナは自分の方を見ない気にしないザカライア第一王子に執着し、第一王子は暴力しか見せ場がなかったはずのエレインに執着した。
「まずいわ。あの王太子も荒々しい女が好きなのかも」
「では、現在の王太子殿下を殺せばいいので?」
「さすがに何もしてない王太子を殺すことはできないわ」
「とても残念です」
心底残念そうにケントは肩をすくめる。
あの運命のお茶会。あれ以来ザカライア第一王子に執着されてしまったエレインは、行く先々に彼が現れるので恐怖した。王子の参加予定のない他家のお茶会を選んでも、彼はどこからかエレインの参加を聞きつけて飛び入り参加する。パンデミリオン侯爵家にはやってこないものの、エレインが出かけた先にもよく出没した。セラフィナはそれを知って、一緒になったお茶会ではエレインに必ず喧嘩をふっかけてくる。
まだ母が亡くなった傷も完全に癒えていないのに、喧嘩を仲裁せず面白がって見物するような第一王子に追いかけまわされ、セラフィナには髪の毛を引っ張られないものの嫌味をネチネチ言われ、エレインはさすがに疲弊して引きこもった。
「やはり、ザカライア王太子を殺しましょう。帝国の名にかけて」
「やめてちょうだい。いくら皇帝陛下が治癒ベッドを認めてくれているからってそれは無理だわ」
「主は許します」
「確かに彼の商団は帝国でかなりの力を持っているけれど。それでも一国の王太子を殺すのは無理よ。それに、復讐は私がする約束でしょう」
ケントの様子が落ち着いたのを確認して、エレインは話を続ける。
「それで見かねた父が私を帝国に留学させたの。医療も学問も最高峰の帝国にね。母の病気の研究もしたかったもの」
「……そのおかげで主とエレイン様が出会ったのなら、まぁ今は我慢します。もしかして、王太子はまだエレイン様のことがお好きなのですか?」
「六歳の好奇心を十年以上たって振り回されても困るわ。マリン・エジャートンに夢中なんじゃないの。十年以上か……それであのセラフィナが完璧令嬢になってるんだから笑える」
「その手紙のお茶会には参加されますか? かなり怪しいですが」
「参加せざるを得ないでしょう。完璧令嬢様ならさすがにもう髪の毛のつかみ合いもブローチを奪うこともしないでしょうし。せっかく作り上げた評判が一瞬にして落ちるもの。王太子の婚約者として情報交換的なお茶会よね」
「エレイン様はただのジャブにジャブで返すような方ではないでしょう?」
「十年ぶりのご挨拶ってところね」
しかし、エレインの予想よりセラフィナの動きは早かった。