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治癒では失った体力までは戻らない。
今すぐに話をたくさん聞きたいが、青白い顔のクラリスはひとまずパンデミリオン侯爵家の離れに寝かされた。
「助かったわ」
「墓荒らしのために行ったのかと思いましたが、まさか生きていらっしゃったとは」
「だから墓荒らしじゃないって言ったのよ」
「まさかジェンキンス伯爵には許可をとってあったので?」
「えぇ、葬儀の後に伝えたわ。葬儀中はしっかり悲しんでおいてもらわないとバレちゃうじゃない」
「さすがエレイン様です。俺の経歴に墓荒らし経験ありと書かなくて済みます」
「私は今褒められているのかしら」
「主なら必ず褒めるはず」
「あの人、変なとこしか褒めないじゃない」
「主はエレイン様のなさることならすべて褒めます」
「それは困るわ。墓荒らしもどきを褒められても」
長い時間馬車に乗っていたので、エレインは廊下で大きく伸びをする。
「今日はもう遅いから休んで。明日以降はいろいろ動くから忙しくなるわ」
「マリン・エジャートン関係ですか?」
「それはイライアスに任せておくわ。客観的な情報も欲しいし。私が動くのは治癒ベッド関連よ。仕事よ、仕事」
「あぁ、主目的がどちらか忘れそうですが商談もしっかりありましたね」
「全く新しい商品だからしっかり根回ししておかないとね。それに、おおっぴらに動いている方がウワサになりやすいし。あの女は早い段階で何か仕掛けてくるはずよ。外出中は治癒を付与した護符を必ず持っておいて。明日はそれも作らないといけないかしら」
「あの女とは王太子の婚約者セラフィナ・アーバスノット嬢のことですか?」
エレインは名前を聞くのも嫌だと言いたげに肩をすくめて頷いた。
「では、まだこの世界に存在しない未来の姪のために学園見学に行ってまいります」
「よろしくね」
「ついでに治癒ベッドの話も広めておきます。どのみち、エレイン様にはお茶会やパーティーの招待状がこれから届くはずなのでそこで宣伝されたらよろしいかと思いますが」
学園で情報を集めるイライアスをエレインたちは見送っていた。
「えぇ、帝国にいる間に彼と相談していた商会があるのだけど。話してみないと実際の感触は分からないもの」
「その際は私も一緒に行きます。帝国でも揉めていましたが、薬を取り扱っている、あるいは治療施設と多くの取引がある商会であれば治癒ベッドを警戒してくる可能性が大いにあるので。ケントと私を必ずお連れください」
「分かってるわ。薬が売れなくなるって帝国でも相当警戒されたもの。今日は出歩くよりも手紙をしたためる日になりそう」
イライアスはケントをちらっと見る。
「主はエレイン様の好きにするようにとおっしゃいましたが、我々にとってはエレイン様を守ることが最重要です」
「それもよく分かってるわ。怪我が治癒できても私じゃなくてあなた達が怒られてしまうんだもの」
そんな会話をしていると家令が朝一番で届いた手紙を運んできた。
「おや、行動が早い貴族たちですね」
「嫌だわ、これ。アーバスノット公爵家からよ。最悪。早すぎだわ」
「マリン・エジャートンよりもこちらへの対処が早い方がいいのでは」
「これはただのジャブだと思うんだけど」
「年月が経って変化されたということはございませんか?」
「あの女はそんなタマじゃないわよ」