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「まさかこの年になって他国で墓荒らしをすることになるとは」
「墓荒らしじゃないわ。今日埋めたものを掘り返しただけじゃないの。明日は雨が降るだろうから証拠も流れるし」
「いや、墓ですよ? 墓を掘ったんですよ? ご令嬢のご遺体もこうして連れて来てるのに! どこが墓荒らしじゃないんですか!」
ケントは震えてはいないものの、なぜ自分が棺を掘り返さなければいけなかったのか納得していない表情で口がへの字である。
「大丈夫よ」
「それはエレイン様も俺と一緒に掘り返したから大丈夫ということですか?」
「それは事実だけど、そうじゃないわよ」
エレインはポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。
「うぅ……エレイン様は墓荒らしで捕まったら俺を差し出すつもりですか」
「もうすぐ分かるわ」
「俺、汗臭くないですか。お邪魔じゃないですか」
「今気にするのそこなの? さっきまで文句も言わずに私に協力してくれたのに汗臭いなんてないわよ」
「主に殺されそうなのでそれ以上は言わなくていいです」
エレインの視線はクラリス・ジェンキンス伯爵令嬢の体に固定されている。黒い布に包まれた彼女の体はもちろん、ピクリとも動かないはずだった。
「い、いま動きませんでしたか?」
「あらほんと? 馬車の振動じゃない? ちょっと早いわ。計算間違えたかしら」
「どういう意味ですか!? ほら、今やっぱり腹のあたりが動いて!」
ケントは完全にビビっていた。
「ゾンビですか!?」
エレインは黒い布をさっと外した。
「ひぃ!」
クラリスの遺体の目が開いていた。口も開こうとしているが乾いて声が出ないようだ。
「エレイン様! まさか死者蘇生までできるようになったのですか? それかまさか本当にゾンビ!」
「ケント、うるさいわよ」
水筒を荷物の中から取り出しながら、エレインはクラリスが握りしめているバラを示す。
「エレイン様が棺に入れたバラ……まさか?」
「まさか?」
エレインはおかしくなって笑いながら先を促すが、ケントはまだ分からないようだ。イライアスならすぐ分かるだろうけれど。だが、分からず頭を抱えるケントの様子も可愛いといえば可愛い。
「このバラに治癒の力を付与しておいたの」
「そんなことができるんですか」
「そりゃあそうよ。護符に付与できるのに何でバラに付与できないと思うの」
目を開いたクラリスは少しずつ指や腕を動かし始めた。エレインは水筒の中の水を指に垂らしてクラリスの唇に塗る。
「しかし、クラリス嬢は死んだはず……やはり、死者蘇生ですか……」
「クラリスが手に入れた毒をギリギリで入れ替えたの。仮死状態にするものに。そして葬儀の時に治癒を付与したバラの花束を握らせて今の時間くらいに目覚めるように調整したのよ」
「おぉぉぉ!」
目の前の状況についていけていないケントの唸り声とともにクラリスの口が動く。
「エ……レイン」
掠れた声だった。
「クラリス。久しぶりね。本当に久しぶり」
エレインの言葉でクラリスの目に涙がにじむ。
引き続き水で唇を湿らせてあげながらエレインはクラリスに顔を近付けた。
「ギリギリというかちょっと遅れ気味だけど助けに来たわよ。遅くなってごめんね」