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小さな女同士のいざこざはよくあることなので、王太子にいちいち報告することはない。こんな小さなことでピーピー喚いているようでは簡単に嫌われる。
それにしても、エレイン・パンデミリオンとはどんな女なのか。気になる。
セラフィナは学園でたびたび接しているから分かっているけど、エレインについては情報が少なすぎる。敵になりえるのか、知っておかないと。
「パンデミリオン嬢は小さい頃にしか会ったことがないから」
「あのお茶会の事件は有名だろ?」
「あぁ、セラフィナ嬢とつかみ合いの大喧嘩したっていう」
「あれからだよな、セラフィナ嬢が変わったのって」
「いやー、そうだったか?」
「そーそー。で、パンデミリオン嬢はいつの間にか留学してたっていう」
「にしてもセラフィナ嬢の髪の毛引っ張ってた人が治癒ベッドを開発なんてな」
「どんな難病でも治るんだっけ?」
「詳細はまだ分からないな。でも商品化されたら人が殺到するだろ。どこの商会が販売権とるんだろうな」
「そういえば、彼女に婚約者いたっけ?」
「いないんじゃないか。聞いたことがない。兄がいるから彼女は跡取りではないしな」
「じゃあ今回の帰国は婚約者探しでもあるのか?」
「さっきの男ともう一人男を侍らしてるって聞いたから、どっちかが恋人だろ」
「さっきの男、所作は貴族っぽかったな。でも姪をわざわざ留学させるなら商人一家かな」
「帝国は優秀な人間は平民でも出世するだろ? 貴族も平民も関係ない。パンデミリオン嬢もモテてるんじゃないか」
「帝国に定住するつもりだろうか」
「それなら今回は最後の帰国ってことか?」
「帝国の学園を卒業するなら、エリートを約束されたも同然だろ」
王太子はおそらくエレイン・パンデミリオンに好意を抱いている。そんな人間に聞いたところで良いことと美化したことしか言わないだろうから、王太子が席を外している間に他の側近たちに聞いてみた。
結局、人の髪を引っ張る暴力女なのか治癒ベッドを開発する聖女のようなガリ勉女なのか分からない。だが、セラフィナとはわだかまりがあるようだ。クラリス・ジェンキンス伯爵令嬢の葬儀に現れたくらいだから、セラフィナとは敵対しているのか。
エレイン・パンデミリオンを一度見てみなければ。
セラフィナとエレインで潰し合ってくれるならいいのだが……セラフィナではなくエレインが王妃になる可能性はあるのだろうか。せっかくマリンが楽をするために頑張ってきたことがおじゃんになるかもしれない。
翌日、学園は休みだったが王太子たちとともに王都で行われている国が手掛ける工事の視察に行った。
王太子一行が視察に行ったところでパフォーマンスでしかないが、王太子が熱心に見て回るので思いのほか長居した。
マリンは骨折のせいもあってそれほど歩き回らなかった。責任者や作業員にニコニコして労わっていただけ。正直、説明を聞いてもよく分からない。セラフィナはこういうところに絶対ついてこないからマリンは王太子の点数稼ぎのためにわざわざついて来たのだ。
現場の人たちは王太子一行が来て肩身が狭くて嫌だろうな。お偉いさんが来る時ってほんとに嫌だもの。そんなことを考えながらニコニコして挨拶しておく。
自分の存在がものすごく虚しくなる時がある。もっとお金があって勉強ができていたら、王太子といろいろ意見を言い合うこともできたかもしれないのに。マリンは賢くないし、ニコニコしているだけしかできない。
でも、母親のように働きづめで働いてせっかく男爵の愛人だったのに薬も手配してもらえずあっさり死ぬような人間にはなりたくない。
母がゾズラン風邪になって、マリンは男爵家まで薬が欲しいと頼みに行った。容姿のおかげで話は聞いてもらえたが、薬は手に入らず母は死んだ。
視察が終わり解散する前にカフェでお茶を飲みながら、王太子たちはあーでもないこーでもないと議論をしている。あちらにも工事を行った方がいいんじゃないかとかどうだとか。
マリンは教育や福祉分野で意見を言うことが多いので今回は質問だけして意見は言わなかった。
急に王太子が窓の外を見て表情を変えて立ち上がる。
「殿下?」
「知り合いを見つけたからちょっと挨拶をしてくる」
「殿下。やめた方が……」
側近が止めたものの、王太子は軽やかに階段へと向かって行く。
マリンもつられて三階から窓の外を見た。
目に飛び込んできたのは目立つ、深い赤。
「あれがパンデミリオン侯爵令嬢だ。あの髪色は間違いない」
王太子を止めた側近がマリンの視線に気づいて教えてくれた。
目立つ女だ。二人の男を後ろに引き連れて深紅の髪の女は向かいの通りにある商会の建物から出てきたところだった。
「治癒ベッドの商談だな」
側近がまた聞いてもいないのに呟く。マリンはじっとエレインを見ていた。顔が見えないからまだどんな女か分からない。
すると、エレインの後ろにいる黒髪の男と目が合った。その鋭い視線にビクリとする。黒髪の剣を携えた男はイライアスに何かささやいた。この前会ったいけすかない男イライアスもこちらを見上げてくる。
相手から見えているのか分からないのにイライアスはにぃっと笑った。エレインの顔はまだ見えない。
マリンは気持ち悪くなって紅茶を飲みほした。




