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プロローグ1

いつもお読みいただきありがとうございます!

 教会にて、ある伯爵令嬢の葬儀が行われていた。

 すすり泣きは聞こえるものの家族や極めて親しかった友人からだけで、目を伏せて悲しんでいるフリをしているような参列者が多い。


「まさか死ぬなんて」

「あの王太子のお気に入りの男爵令嬢をいじめた犯人だったのでしょう?」

「えぇ、修道院行きを殿下に言い渡されていたわね」

「修道院が嫌だったのかしら」


 祈りの合間を縫ってコソコソとささやかれる会話。


 亡くなった、いや自死したのは王太子のお気に入りである男爵令嬢をいじめたとして先の学園でのパーティーで糾弾されたクラリス・ジェンキンス伯爵令嬢その人だった。


 王太子にはもちろん婚約者である公爵令嬢がいた。しかし、学園に入ってからはとある男爵令嬢と一緒にいることが増えた。最初は静観していた女子生徒たちだったが、半年ほど経っても王太子が男爵令嬢と行動を共にしているのを見て始まったのがいじめである。

 最初は男爵令嬢のノートがなくなる、足をひっかけられる、茶会に一切呼ばれなくなるなどだった。それがだんだんエスカレートし、とうとう傷害事件にまで発展した。


 男爵令嬢を階段から突き落としたのが、クラリス・ジェンキンス伯爵令嬢だったのである。男爵令嬢は幸運にも骨折だけで済んだが、王太子は怒って調査を依頼した。

 そうして王太子の婚約者である公爵令嬢が主導したと思われたいじめだったが、すべてクラリス・ジェンキンス伯爵令嬢の行ったことであると明るみに出たのが学園でのパーティーだったというわけだ。


 多数の証人がおり、大勢の前で糾弾された伯爵令嬢は否定したが聞き入れられず、パーティー会場からは追い出された。そして伯爵家には令嬢を修道院に送るように王太子の命令が出たところだった。


 男爵令嬢は王太子の婚約者でも何でもない、表向きはただの側近とされている。女性の側近は珍しいものの、王太子も男爵令嬢もきちんと距離は弁えていた。

 学園卒業前に学園内で起きたことだったため、ジェンキンス伯爵令嬢は牢にも入れられずこのような処分となったが貴族としては社会的に死んだも同然だった。


 讃美歌の途中で、教会の扉が大きく開かれた。

 情報を得るためだけに葬儀に来て、悲しむフリをして退屈しきっていた参列者たちは何事かと振り返る。


 まず目に入ったのは見事な深紅の髪。その髪をなびかせて令嬢が悠然と歩を進める。彼女に影のように付き従う二人の男のうち片方は赤毛、もう片方は黒髪の背の高い人物であった。


 深紅の髪の令嬢は髪と同じように赤いバラの花束を抱えている。彼女がカツカツと歩を進めるたびに、参列者たちのヒソヒソ話が大きくなる。


「あの見事な髪は……」

「まさか、パンデミリオン侯爵家の!」

「あの方は留学中では?」

「いつの間に帰国されたのか」


 彼女は泣いている家族たちのところまで行くと、花束を差し出した。


「クラリスが好きだったお花です。遅れて申し訳ございません」


 一輪を手元に残し家族たちが花束を受け取ると、彼女は棺に向かう。棺を覗き込んで悲しそうな表情だ。


「ジェンキンス伯爵令嬢と仲が良かったのか?」

「帰国してすぐに駆けつけるほどに?」


 参列者は軽くざわついているが、彼女は気にせず棺の中に手を伸ばしてバラを入れる。


「どうして私に相談しなかったの」


 深紅の髪の令嬢エレイン・パンデミリオンは悲しそうに、大切なものを触るようにゆっくりと棺を撫でた。そして顔を上げて参列者たちを舐めるように眺める。まるで、一人一人完全に記憶するように。


 大して死を嘆いていない参列者たちは思わず尻の位置を後ろに下げたのだった。


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