勇者物語は世界まるごと使った演劇である。
剣と魔法が滅茶苦茶使われている、いかにもファンタジーに特化した世界群の片隅の世界。
この世界では世界一つ丸ごとで企画される祭りが存在する。
五年に一度の大祭り、勇者歓迎祭。
至って平和でクソつまらない世界を飾り立てるために暇を持て余した自称賢者は大昔の見聞を思い出す。
はるか昔に別世界から召喚された勇者は別世界で勇者になることを憧れていたと。
ならば暇を持て余してしまうより定期的に魔王と勇者戦わせた方が盛り上がらること間違いない、と。
そこで自分の世界から魔王役をランダムに決めて育て、世界の準備を整えてから勇者を呼ぶ。
この時に何も知らない勇者が乗り気な場合に、その人間を勇者として戦わせた。
勇者の冒険は人によって、それぞれ。
変にハイレベルな魔法を使っては映像記録として残して売り出せば、あれよあれよと売れた。
勇者物語と名付けられた、それらは酷いことに親しみのある娯楽である。
勇者だけが何故か気づけない。
「ということで、勇者歓迎祭な訳だが。今回の魔王側の役が何故か来た。確かに、街の問題を解決するための何でも屋だ。だが!正直これは請け負ってない!正直に言えば断りたい!俺は魔法使えないエルフだが、問題は従業員のお前らだ!はい!前回のお前らの役を答えよ!」
「あ、はい。僕は裏ボス役です。簡単な魔法を使ったら勇者が漏らしました。おもらし勇者って有名にしてしまったんですよね。」
「俺っちは裏切り枠だな。滅茶苦茶泣かせて楽しかったぞ。」
「え?俺は裏ボスの右腕ですね。勇者が実は心だけ女だったらしくて会った瞬間告白されました。あの時は凄く怖くって、所長が言いくるめてくれたことは感謝しています。」
「いや、確かにそこも問題だけどさ。お前ら、元裏ダン組出来るくらい強いじゃん。今年の勇者、ラスボスにたどり着けないだろ。お前ら手加減苦手なのは知ってるんだからな。初代魔王と、その右腕だって俺しか知らないが。」
「でも今回の幹部は僕の友達ばかりみたいです。さっき魔法で頭に連絡が来ました。みんなで楽しく久しぶりに悪役出来るって考えると嬉しくて。」
「うわ、更にえげつない状態だった。何考えてんだ、最終的には勇者勝たせないといけないのに。」
「たまには大苦戦する勇者を撮りたいそうですよ。でも折れやすい人には今回の勇者役任せられないですよね。」
「軽く世界一回滅ぼしかけた面子だもんな。上がお前ら元魔王組って知らないだけでハードだろ。お前ら行き倒れしてて、そう見えなかったが。」
「所長に拾われて力強いだけの良い人言われて嬉しかったですよ。」
「ん、だな。で?所長さんの役はなんだ?」
所長と呼ばれた男性は固まると紙を丸める。
盛大に冷や汗かく姿に従業員の彼らは首を傾けた。
「今回の魔王役な、……実は俺なんだよ。」
「は?え?嘘言ってます?怒りますよ?」
「どれどれ、紙よこしやがれ。」
裏切り枠を担当した男が紙を奪って広げる。
固まると、他の二人に見えるように見せた。
他の二人も固まる。
そこには確かに魔王役として所長の名前が書かれていた。
本来は魔王役は強力な魔法を使える者が当てられるはずだ。
どうやら、街の悩みを解決しているうちに人々から強力な魔法が使えると勘違いされたようだ。
「命の恩人である所長が魔王……。よし、途中で勇者の心折りましょう。」
「いくらなんでも、大恩人である所長に傷なんか出来たら大変ですもんね。」
「お前ら、今回の祭りの責任者の事を忘れてないか?俺がそいつを廃人にしてきてやる。」
「あ、僕の友達にも魔王が所長って伝えなきゃ。きっと、みんな本気を出す。」
「むしろ、また世界滅ぼそう。」
「おまえら、待て!なんで俺が魔王なだけで、そんなやる気出すんだよ!」
「え?決まっているでしょ?それだけ貴方に人生を救われたからですよ。」
所長と呼ばれた男は彼らを止められない。
だから諦めて、ただ酷い目に合うであろう勇者に心の中でひっそりと手を合わせたのだった。