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第7話 親子の確執

 ウエンズ伯爵は昔から領地経営に腐心していた。何もなかった土地を開拓してここまで来たが、まだ苦労が絶えなかった。それを支えてくれたのはカーラ夫人だった。そして彼女は内向きのこと、家族の世話も甲斐甲斐しくやってくれていた。言葉には出していないが、ウエンズ伯爵は彼女に大いに感謝していた。彼女のおかげでこの伯爵家が安泰でいられると・・・。

 しかしエバンスはいつのころからか、反発するようになった。カーラ夫人の言うことはもちろん自分の言うことも聞かなくなった。それが今一番の悩みだった。


 いつもウエンズ伯爵は散歩から戻ると執務室に入り、仕事をしていた。そこにヘイズが領内のことについて報告に来るのが常だった。


「伯爵様。報告書を持ってまいりました。」

「ご苦労。後で目を通す。そこに置いてくれ。それよりエバンスの様子はどうだ? 村の者の迷惑を顧みず、領内を馬で走り回っているそうではないか。」

「それは・・・」


 ヘイズはわざと言いにくそうな素振りをした。


「よいから正直に話せ。」

「わかりました。若殿は今日も馬でお出かけになりました。もう止めてもお聞き届けになりません。」

「そうか。それなら私から話をするから帰ったら呼んでまいれ。村の者たちが迷惑していると聞いている。」

「それが・・・伯爵様にもお会いしたくないとか・・・。」

「それは本当か?」

「ええ。お心を閉ざしておられます。それは最近ひどくなって・・・。このままではこの伯爵家の未来が危ぶまれます。」


 ヘイズは心配そうに言った。ウエンズ伯爵はため息をつきながら言った。


「確かにこんなことが続けばエバンスに跡を継がせるわけにはいかぬかもしれぬ。」

「それなら王都に出されてはいかがでしょうか。ジョン様がおられることですし。」

「うーむ・・・。」


 ウエンズ伯爵はまだ決心がつかないようだった。自分に背を向けるからと言ってそんなに簡単に息子を外に放り出していいものかどうかと。


「伯爵様。若殿がこのままこの地におられたら、村人がこれから先、どれほどの迷惑を被るかもしれません。そんなこともし王都のハークレイ法師様に知れれば伯爵家はお取り潰しになるかもしれません。それに若殿も王都に出られれば気分が変わり、よい道が開けるかもしれません。どうかご決断ください。」

「なるほどそうかもしれぬ。」


 ウエンズ伯爵はゆっくりとうなずいた。


 ◇


 エバンスは老人とゲンブをお城に連れてきた。老人にカーラ夫人の悪だくみを見抜かさせるつもりだった。


「よし。これから会いに行く。多分、父上とあの者は今頃、広間で村人と会っているはずだ。」


 エバンスはそう言って老人たちと広間に向かった。



 広間ではウエンズ伯爵が村人の代表から様々な話を聞いていた。その中にはエバンスが乱暴に馬を走らすことで迷惑を被った話もあった。それを聞いてウエンズ伯爵は


「すまぬ。エバンスにはよく言い聞かせる。」


 村人にそう謝った。伯爵は最近、エバンスについていい話を聞かないと心を痛めていた。

 そんな時、エバンスが広間に入ってきた。老人とゲンブはその隅に残して、彼だけがウエンズ伯爵の前に出た。


「父上、ご機嫌麗しゅう。 今日は旅の方術師を連れてまいりました。何かの役に立つかと思いまして。」

「エバンス。お前はまた村で乱暴に馬を乗り回しているようだな。苦情が出ておるぞ。」


 ウエンズ伯爵の言葉には怒気が含まれていた。これでは言い争いになると思ってカーラ夫人が横から言った。


「エバンスはただの気晴らしに行っただけです。これから気を付けるでしょう。エバンス、お父様に謝罪を。」

「それは申し訳なく、これから気を付けます。」


 エバンスはとってつけたように謝った。助け舟を出したカーラ夫人だったが、彼は彼女に対して嫌悪感を覚えていた。一方、ウエンズ伯爵はその様子を見てはっきりと決めた。


「エバンス。このままではお前はだめになる。これから王都に行くがいい。そこで勉強してくるのだ。」


 エバンスにとってそれはこの地からの追放という風に聞こえた。やはりカーラ夫人がこの伯爵家を乗っ取るのは本当だったかと・・・もう方術師に力を借りなくてもそれがはっきりと分かった。


「父上。あなたは私を追い払いたいのですか!」

「そんなことはない。お前のためを思って・・・」

「いや、違う。この女にたぶらかされているんだ!」


 エバンスはカーラ夫人を指さした。伯爵はそれに激怒した。


「何を言う! 仮にもお前の母だぞ。」

「この女が母であるわけがない。私の母は一人だけだ!」


 そう言ってエバンスは広間を飛び出していった。


「エバンス。待ちなさい!」


 その後ろをカーラ夫人が追いかけようとしたが、


「放っておけ!」


 とウエンズ伯爵はそう言って止めさせた。カーラ夫人は足を止め、悲しそうな顔をして顔をうつむけた。その目には涙が光っていた。


(やはりエバンスは私たちに背を向けている。私のせいなのか・・・。私がエバンスの母としてふさわしくないからなのか・・・)


 カーラ夫人は自問していた。

 その広間には言いしれない冷たい空気が流れていた。その雰囲気にいたたまれなくなったウエンズ伯爵は深いため息をつくと、


「執務室に行く。」


 とだけ言って席を立って広間を出て行った。その後に家来たちも続いて出て行った。


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