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第5話 庭の風景

 エバンスが目覚めるともうとうに日は高く昇っていた。


「寝過ごしたか・・・」


 窓を開けると、庭から楽しそうな声が聞こえてきた。そこにはウエンズ伯爵とカーラ夫人、そして8歳になる弟のジョンが話をしながら歩いていた。それは幸せそうな家族そのものだった。



 ウエンズ伯爵は朝食後のひと時、庭を少し散歩するのを日課としていた。そこにはいつも妻のカーラ夫人と次男の幼いジョンがいた。ジョンが声を上げて元気に庭を走り回る姿を見て、ウエンズ伯爵は心が安らぐのであった。彼は一つの憂鬱を抱えていた。


「ジョンは元気でよい。エバンスもああいうときがあった・・・」


 ウエンズ伯爵は少し寂しそうにつぶやいた。それに対してカーラ夫人は目を伏せて何も言うことができなかった。


「兄上は? 兄上も一緒に来たらいいのに・・・」


 ジョンが駆け寄ってきてそう言うが、それは土台無理な話だった。困り顔のウエンズ伯爵を見て、カーラ夫人が言った。


「ジョン。もう少し庭で遊んでいなさい。お父様はお仕事されるから。」

「はーい。」


 ジョンは向こうに見える木々の方に走り始めた。その後を乳母たちが追いかけた。それを見ながらウエンズ伯爵がつぶやいた。


「エバンスの心がわからぬ。」


 その顔は悲しそうだった。カーラ夫人は励ますように言った。


「エバンスは難しい年頃なのでしょう。でもそのうちに心を開いてくれますよ。」


 だがカーラ夫人自身が最近のエバンスの態度に戸惑っていた。母と呼ばれなくてもいい、せめて家族として・・・と思うのだが、彼は自分をまるで敵であるような目で見ている。かつてはあれほどなついていたのに・・・そう思うとため息が出た。


「そうであればよいが・・・」


 ウエンズ伯爵はそう言いながら青い空を見上げた。


(いつの頃からか、エバンスは背を向けるようになった。それは前妻のローズがこの城を出て行った頃か、馬車の事故で亡くなった頃か、カーラを後妻に迎えた頃か、ジョンが生まれた頃か・・・いや、そうではない。ごく最近数年のことだ。何があったというのか・・・)


 思い返してみたがわからない。たまに見かけるエバンスの暗い顔を見ると、ウエンズ伯爵は胸が締め付けられる思いがした。エバンスをこうしてしまったのは自分のせいではないかと・・・



 そのウエンズ伯爵の心の内はいざ知らず、庭を散歩する3人は幸せそうに見えた。それを目にしてエバンスはため息をついた。本来なら自分もそこにいるはずだった。しかしそこに自分の居場所はない、自分は余計者なのだと感じていた。彼は乱暴にドアを開け、また馬で出かけようと馬小屋に向かっていた。その時、背後から声をかけてきたものがいた。


「若殿。ご機嫌麗しゅう。」


 それは家老のヘイズだった。その横にはいつもエバンスにつきそうお付きの剣士がいた。


「ヘイズか。今日も出かけるぞ。」

「そうでございますか。それならこの者たちを共に。ガイヤ、オルガ、若殿のお供をせよ。」


 ジェイズの言葉に「はっ。」と2人の剣士が頭を下げてエバンスの横に付き従った。ヘイズは潜めた声でエバンスに言った。


「若殿。この城におられればつらいことでしょう。亡きローズ様に代わり、あのような女が伯爵様のそばにいて我が物顔でふるまっているのですから・・・」

「ヘイズ。もう言うな。」

「いえ、このヘイズ、ご同情申し上げます。あの者は伯爵家の乗っ取りを企んでいるに違いありませぬ。若殿の悔しさは我らにもわかります。少しでも気を紛らわせていただければ・・・。」

「そういえば昨日、気になる者に会った。父上にも引き合わせたいと思うのだが。」

「どなたから悪い噂を吹き込まれたのか、伯爵様は若殿を疎まれております。今、直接お会いしない方がよろしいかと。伯爵様には私がうまく申しあげておきます。」

「そうか。頼むぞ。」


 そう言ってエバンスは供の剣士を引き連れて馬に乗って城を出て行った。それを見送りながらジェイズはニヤリと笑っていた。


「あの若造にはしばらく城の外で遊んでくれていた方が都合がいい。ガイヤとオルガが奴の動きを知らせてくれるしな。」


 そう言ってヘイズは伯爵の部屋に向かった。




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