十五
「クロ覚えてる?」
俺の問に、クロはしばし考え込む。
『いや』
「そっか……」
やっぱ、覚えてないか……。
「あ。そういえば、野獣の攻撃がやんだ」
俺は辺りを見回す。
「あぁ、それならさっきの光と共に、消えたみたいですが」
「そうなの?」
「はい」
うーん……。光と共にか……。やっぱりクロが関係するのかな?
「それより、そのイロンと話をしているみたいですが……」
「え?」
聞こえない? 俺にははっきりと聞こえているけど……。
「クロの声、聞こえない?」
「はい」
「私は聞こえるわよ」
「私も~」
いや、そこの二人は論外。それよりも、犬もどきじゃなくてイロンね。覚えておこう。それにしても、なんで俺だけ聞こえるんだろう? 転生者だから? それならルキウスも試したいな……。
「ねえ、クロ。俺たちと一緒に来ない?」
『お前たちと?』
「うん。一つ、確かめたいことがあるんだ」
『……』
クロが考えている。まぁ、気持ちは分かるよ。いきなり、行こうかって言われてもね……。
『分かった』
「本当?」
『あぁ』
「良かった。もう一人転生者が居るんだけど、そいつにも声が聞こえるかなって……」
『分かった』
クロが了承してくれたようで、安心してお城へ向かう。それにしても、転生者か……。元は人間だった見たいだけど、どんな人間だったのだろう。謎だ……。
エルフの城へ着くと、ルキウスが出迎えてくれた。
「おかえり」
「ただいまー」
「野獣どうだった?」
「そのことなんだけど……」
俺はクロの方を見る。
「ん? どうしたの? そのイロンってか、犬って言った方が分かりやすい?」
「イロンで大丈夫だよ」
「そう?」
「それでね。このイロン転生者なんだ」
「え?」
「元は人間で、言葉を話すんだけど、俺以外は聞こえていないらしい……。あ、あの二人は女神だから除く!」
「ふーん」
クロは大人しく待っている。
「それで、転生者にしか分からないのか聞いて欲しいんだ」
「いいよ」
さっそく、ルキウスはクロと向かい合う。
「こんにちは」
『挨拶を返せば良いのか?』
「わっ! 聞こえる!」
「え? 本当?」
「うん」
「じゃあ、やっぱり転生者だと話せるんだ」
「そうみたいだね」
うーん。そっかそっか。転生者なら話せるのか。まぁ、俺の妄想じゃなくて良かった。と一安心したところで、悲鳴が響き渡る。それに合わせてざわざわと人が周りを取り囲んだ。




