十三
朝、爽やかなアナトが居た。
「さぁ。出発するわよ!」
まぁ、もうモネータは居ないみたいだし、こんなもんかな……。
「モネータのことはもういいの?」
「……モネータ? 誰それ?」
「……」
忘れている……。モネータのことは、忘れている……。それだけ過酷だったんだろう……。
「買い物に行くとか?」
「そうそう。買い物ね!」
やけに明るい。これ以上、モネータのことは聞かない方がいいかな……。よし、モネータのことは口にしないでおこう。
「あれ~? モネータは~」
うぉい、モネータのことは口にしないって決めたばかりなのに……。
「モネータって誰?」
俺じゃ、慌ててイシュタムのところへ駆けつける。
「ちょ、ちょっと……」
「な~に~」
すぐにイシュタムをアナトから引き剥がす。
「ダメだって。せっかく忘れていると言うか、現実逃避してるんだから……」
「ふ~ん。そうなの~」
なんとなく分かってくれたようだ。これで一安心……。
「で~モネータは帰ったの~」
うわー! 俺の言うこと、なにも分かっていない! モネータのことは出すなって!
「モネータ……」
あ、マジでヤバい?
「……モネータ……モネータモネータモネータ……」
俺、知らない……。
「いやー!」
アナトは、部屋の隅に頭を抱えて小さく身体を縮こまるようになにかに怯えている。こうなったら、しばらくダメかも?
「ねぇ~モネータは~?」
イシュタムの肩を叩く。ゆっくりと頷き、イシュタムを部屋から放りだす。
「え~なんで~?」
イシュタムの抗議の声が聞こえたけど、関係ない。
「ほら、アナト旅に出るんだろう?」
アナトは変わらず、部屋の隅っこで小さくなっている。
「買い物へ行かなきゃ……」
少し、収まったように見える。見えるだけで、違うかも? うーん。これはしばらくダメだな。仕方がない。今日も俺一人でうろつくか……。そう決め、俺は部屋を出た。イシュタムはもう居なくなっていた。
えーっと、とりあえずは街を出る準備をするか……。アナトは役に立たないし、イシュタムはアレだし……。ここは、俺がなんとかしないとな……。とりあえず買い物? 食料と水は必需品だよな……。旅の扉? みたいのを使うけどどれだけ必要なんだろう? しかも、アナトが居ないと異次元とか使えないし……。
「まっ、なんとかなるか……」




