十八
マジか? そんな理由でなのか?
「そんなわけないでしょ!」
アナトが否定するとイシュタムが首を捻った。少しして、何かを思いだしたような顔をして手のひらを軽く叩く。
「そういえばこれ~預かってた~」
そう言いながら、どこからか取り出したA4サイズの封筒をアナトに差し出した。途端、アナトの顔色が変わる。慌てて中を見るアナト。
「えっと……」
なんだかアナトがしどろもどろになった。
「そ、蒼真……。なんでも好きなものを食べていいからね」
「あ、そうなの?」
「うん……」
なーんだ。なんでも好きなものを食べていいんだ。こうなったら、食べまくる! 名物と言われるものを食べる! 食べまくる! とほくほくしているとアナトの様子が変? なにかに怯えてる?
「どしたの?」
「な、なんでもないのよ」
「そう?」
なんか怪しい……。
「それよりも、早く行きましょう」
アナトが歩き出す。
「どこへ?」
「どこって、買い物をして、ワープ出来る場所へ向かうんでしょう?」
俺は溜息を吐いた。
「場所が違う。商業区はあっち」
指さした俺を見た。イシュタムが言っていたし、あっちで間違いないんだろう。
「そ、そうだったわね」
怪しい。アナトの様子がおかしい。あの、A4封筒の中には何が入っていたんだ?
「ねえ。その封筒なにが入ってたの?」
「な、な、なんでもないわよ!」
「ふーん」
やっぱり怪しい。
「さあ、行くわよ!」
アナトが商店街へ向かって歩き出す。
「あっ」
そうだ。忘れていた。俺は慌ててアナトに近寄るとその耳に口を寄せる。
「あのイシュタムはどうするの?」
二人揃ってイシュタムを観る。イシュタムは、俺たちに構わずに何かをしているようだった。
「うーん……。連れて行くように指示が出ているのよね……」
アナトは溜息を吐く。
「仕方がない。連れて行くか……」
俺たちは、未だに何をしているのか分からないイシュタムを見る。手に丸太? を握りしめて振り回しているような……。
「イシュタム、何してるの?」
「んん~? 次にソーマが助けてって言ったら、助けるの~」
「あっ、そう……」
とりあえず、ほうっておこう……。
「とりあえず、食料だな」
「そうね」
俺とアナトは歩き出す・イシュタムはなんとなく付いてくる気だ。手には丸太を持っている。まぁ、気にしないでいよう。それよりも、俺の食費が経費ってところが魅力的だ。異世界の食べ物を好きなだけ食べられる。俺の心はまだ見ぬ食べ物のことでいっぱいになった。




