十七
「なによ! せっかく色々と話してたのに……」
「どんだけ話してんだよ。買い出しに行くんだろ?」
「ちょっとしか話してないでしょ」
「止めなきゃ、いつまででも話してそうだったんでね」
「そんなことないわよ!」
「アナト~王子様が好きだもんね~」
「べ、別に好きじゃないわよ! それにあの人は騎士様でしょ!」
「この国の王子様だって」
「え? うそ!?」
「本当らしい。イシュタムが言ってた」
「本当? 本当に王子様なの?」
「うん~」
なんか、アナトの顔つきが変わった。夢見る乙女って感じだ。女神とか言うけど、その辺の普通の女の子と変わんないよな。
「えー、今度会ったとき、どうしよう……」
「どうしようって何が?」
「え? やだ! 決まってるじゃない!」
「決まってるんですか……」
「今日だって、良い感じだったし……」
「そういや、何を話してたんだ?」
「んーどこへ行くのかとか、連れの人数とか、どんな人かとかそんな感じね」
やっぱりあやしい……。
「それって、情報収集されてないか?」
「やっぱりそう思う?」
おっ? アナトも分かってるのか? じゃあ、わざと話し込んでたとか?
「絶対に、私のことを見初めたのよね? それで、私のことを知りたかったに違いないわ」
「……いや、違うだろ……」
「いやーん、どうしよう……」
「聞けよ。ち・が・うだろ!」
「違わないかもよ?」
「アナト、あいつのことあやしいって思わないのか?」
「イケメンは正義! どこもあやしいところなんて無いわよ!」
俺は、思いっきり溜息を吐く。ダメだこりゃ……。
「分かった。分かったから、とりあえず買い出ししよう」
「うんうん」
イシュタムが、俺に同意して頷いた。
「あと……腹減った……」
朝、飯も食わずに家から引きずり出され、干し肉をかじりながらここまでやって来たんだ。ろくに飯も食ってなくてもう限界だ……。
「そうね。そういえばお腹空いたわね」
「わたしも~」
「よし、じゃあ、なにか食いに行こうぜ」
「いいけど、お金あるの?」
「うっ……」
俺が持っているのは、おそらく一番安い貨幣だと思われるもの一枚……。これじゃあ、何も買えないっぽい……。
「ソーマの分は~経費~」
ん? 経費?
「経費って、俺は金を払わなくていいって事?」
「そうだよ~」
アナトの奴、そんなこと何も言ってなかったじゃないか!
「ちょっ! なに言ってるの! 経費じゃないわよ!」
「そうなの~? わたし、ご飯食べ放題って言われたから来たんだけど~?」




