十
なんとなく、イシュタムを置いていくような感じで言ってみたけど、特に反応はない。俺とアナトは、ゆっくりと足を踏み出した。少し後ろに気を付けながら歩いていると、やっぱり後を付いてきている。ここで待ってるってのは無いか……。
「どこ~いくの~?」
「市場に食料を買い出しに」
そう言ったとたん、イシュタムが足を止めた。おっ? ここで待ってるのか?
「市場~あっち~」
そう言いながらイシュタムが指さしたのは、俺たちが向かっているのとは反対の方向だった。
「ん? 街の中心とかにあるんじゃないのか?」
「あっちだよ~」
変わらず、イシュタムは反対方向を指さしている。
「商業区はあっち~」
商業区? もしかして、ここって商業区と工業区とか区分けされてるのか?
「ずいぶん、詳しいわね」
なにかを含んだ感じでアナトが言った。
「だって~三日前からいるもの~」
「三日前? なんで?」
「アナトと美少女を待ってたよ~」
「あ、俺の名前は蒼真だから」
美少女と呼ばれるのは悪くないけど、俺が呼ばせてるとか思われると嫌だしな……。
「そうま~?」
「うん」
「わかった~そうまって呼ぶ~」
俺の名前、知らなかったのか……。仕事相手? は弟だし、まぁ、知らなくても当然か。
「わたしは~イシュタム~」
「うん」
「闇を齎す者って呼んでね~」
「はい?」
なんだ? その厨二全開な呼び名は……? 見た目だけじゃなくて、中身も厨二なのか?
「わたしに~あってるでしょ~」
ダメだこいつ……。
「しばらく日本にいたら~てれびっていうのからかっこいい名前が聞こえてきて~」
ん? こいつ、日本にいたのか? って、俺の弟のところに行くはずだったんだから、別に変ではないのか……。
「それで~すっごくそれがおもしろくて~ずっと見てたんだ~」
こいつが仕事に行かなかったのは、厨二アニメのせいなのか……。
「だから~わたしもかっこいい名前で呼んで貰うんだ~」
「分かった。イシュタムって女神の名前が超カッコイイから、それで呼ぶ」
「え~? イシュタムってカッコイイの~?」
「神さまの名前以上にカッコイイ名前はないだろ?」
「そうなんだ~じゃあ、イシュタムって呼んでもいいよ~」




