五
「その顔、殴ってもいい? いいわよね? 私には、その権利があるわよね?」
ここまで怒りをあらわにするアナト……。いったい、この少女との間に何があったんだ?
「それで、このすっごい美少女があの時の人間? 名前、なんだけ?」
「蒼真」
名前を聞かれて、ついつい答えてしまった。
「あれ~? そんな名前だったっけ?」
「予定の人物とは別人よ! だから、こんなことになってんじゃない!」
「あ~そうだったね~」
アナトが拳を振り上げた。俺は、慌ててアナトの腕に抱きつき止める。
「それで? なんの用なの?」
怒りでふるふると震えるのをこらえながら用を確認する。
「ん~手助け?」
「そんなものいらないわ!」
アナトはまた、大きな声で叫ぶ。
「だいたい、こんなことになってるのも、あんたのせいでしょ!」
「そうだっけ~?」
「そうよ! あの日、貴方が現場に居ないっていうから、急遽、私が行かされたのよ! 分かってんの?」
「あーそうだった~」
悪いと思っていないようなゴスロリっぽい少女の答えに、アナトの気持ちが良く分かる。というか、俺、当事者じゃね?
「まぁ~あれよ。気にしな~い」
悪びれた様子もないこのゴスロリ? に、俺もちょっと怒りがわいてきた。
「そんなことよりも~」
「そんなこと?」
あーもう無理! アナトの怒りを抑えるのは、俺には無理! そう思い、アナトの腕をつかんでいた手の力を緩める。
「だって~もっと重要な話があるんだも~ん」
こいつ、素が出てきたのか? 変な話し方を始めた。いや、元々こんな感じではあったが、輪をかけて変になってる。
「なによ! その重要な話って!」
「え~とね、アナトたちの手伝いすることになったんだよ~」
突然の爆弾発言? に俺とアナトは言葉を失った。どれぐらいの時間が経ったのだろう? 二人とも我に返ったときにはゴスロリ? の姿が消えていた。
「あー今のなに?」
「さぁ……?」
「なんか聞いたような気がするけど、気のせい?」
「たぶん」
そうだよな。元凶の人間が手伝いするって、いうのはありだろうけど、あの様子じゃ……。 俺、あいつのせいで、今ここにいるわけだし……。いや、俺としては結果的に良かったと思う。弟が死ななくて済んだし、俺も異世界に転生したわけだし、丸く収まったと言えば、言えなくもない。そう思うと、俺としては別に恨みもないしいいと言えばいいのか。
「まったく……。何がどうなってるのよ……」




