一
二人揃って、騒がしい方へと向かう。どうやら、喧嘩? でもしているみたいだ。近づくと、人垣の向こうで誰かが争っている気配がする。気になった俺は、人垣をかき分けて前へと進んだ。アナトはどうでもいいみたいで、人垣の外にいる。
とりあえず、アナトのことはいいや。この人垣の向こうに何があるのか気になるし、進んでみよう。それにしても、女の子って小さくて力ないし、押されても押し返せないし大変だ……。ちょっと背伸びもしてみたけど、まったく見えない。
「いてっ!」
いきなり肘鉄を食らう。見物人? はみな興奮して、口々にやっちまえー! とか叫んでる。喧嘩か何かか? 気になる……。後もう少しで人垣の中心にたどり着くというとき、いきなり背中を押された。俺は前のめりに倒れ込み、いきなり人垣の中心に押し出される。急に開けた視界に飛び込んできたのは、今まさに刀を振り下ろそうとしている金髪の男の姿だった。
俺に向かって振り下ろされる刀から逃れるために、思わず風を起こす。気圧に変化を起こさせればいいだけだから、かなり楽といえば楽な魔法だ。
「うわっ!」
風に吹き飛ばされる剣士? に、まわりの人垣が喝采を上げた。無事を確認して一安心していると、隣で何かが動く。俺と同じように倒れ込んだ町人? というか市民? よく分からないけど普通っぽい男が立ち上がり、人垣の中へと逃げ込んだ。
「待てっ!」
先ほどの剣士が声をかけるが、普通っぽい男はそのまま人垣に紛れ込んでしまった。追うことを諦めたのか、剣士は刀を下ろす。もしかしなくても、俺、何かやった? たぶんやったよな……。間違いなくやったな……。
「先ほどの風はお前か?」
「え? 風? なんのこと?」
かわいく惚けてみる。証拠なんて無いんだから、とぼければ逃げられるよな? それにしてもこの人、剣士というよりも騎士? 細かい細工の入った鎧とか装備してるな。
「すまない。盗人を助けるようなタイミングで現れたので、つい疑ってしまった」
そう謝りながら、騎士と思われる人は俺に向かって手を差し出してきた。えっと、この手は取った方がいいんだよな? 悩みながらも、差し出された手を取る。
「怪我はないか?」
「はい。大丈夫です」
もう、ものすごく可愛く答える。すると、騎士の人の頬が少し赤くなった。
「ごめんなさい……。私、邪魔してしまったみたいで……」




