二十一
ん? 歩きだと? ということは、馬車とか馬とかを使えば、もっと早いのか? 人間の歩行速度が、時速約4キロだろ。馬がだいたい60キロぐらいだから……単純計算なら一年はかからないが、馬って、どれぐらいの距離を移動できるんだ? それに、人間も一日にどれぐらい歩けるんだ?
「まぁ、もっと簡単な方法はあるんだけどね」
え? 簡単な方法? それってもしかして……。
「移動魔法ですか?」
「そうね」
そんな便利な魔法があるなら、さっさと使おうぜ! さっさと移動して、さっさと終わらせて、さっさと帰ろうぜ!
「問題は、蒼真よね……」
「え? 俺?」
「そう……。私一人なら、すぐに移動できるんだけど、蒼真は無理だからね……」
なんだよ。じゃあ結局は徒歩か馬ってことか? ぬか喜びさせるんじゃねーよ!
「だから、移動の扉みたいなのを使うわ」
「へ?」
「蒼真が遊んでいるゲームにも、そんなのあるでしょ? 別の場所に移動できる装置」
「そりゃ、RPGとかでは定番だけど……」
「じゃあ、そこへ行くわよ」
「ちょっと待て、それって俺も使うことができるのか?」
「もちろんよ。じゃなければ、連れて行かないわよ」
「分かった」
「その装置をいくつか経由すれば、10年はかからないわね」
「あの……ちなみに、何年ほどでしょうか?」
「一年はかからないんじゃない?」
俺の口から、思わず安堵の溜息が出る。
「じゃあ、最初の装置へ行く前に、近くの街に寄って食料とかを仕入れましょう」
「あぁ」
近くに街があるのか……。って、ちょっと待てよ。こういうのって街まで何日もかかるとかよくあるよな?
「街までどれぐらい?」
「歩いて半日ぐらい」
またまた、俺の口から安堵の溜息が出た。
「じゃあ行くか」
安心したのと、街を見てみたいのとで、思わずはりきってしまう。
「なんだか、声がうきうきしてるわね」
「そりゃね」
俺、この世界に来てからあの家と、森の中しか知らないからな……。人も家族とアナトしか会ってないし、色々と興味はあるし楽しみだ。そう思いながら、アナトの背中を追う。