二十
あれ? 死なれたら困るのか? どういうことだ? 俺が嘘を言ったせいで困ったことになってんだよな? その元凶の俺が居なくなれば、アナト的には問題解決ってわけじゃないのか?
「蒼真?」
考え込んでいると、アナトが俺の顔を覗き込んできた。
「ん? 何?」
「ボーッとしてるから、どうしたのかと思ったんだけど?」
「あ、悪い。ちょっと死にかけて色々と思うところが……」
俺が死んで問題解決なら、そもそも助けるようなことはしないよな。この身体に俺の魂? を移す? ようなことはしないだろうし、死んだ状態でそのまま連れてくよな。俺の死体を引きずるアナトを想像して、なんだか少しおかしくなった。
「なに、にやにやしてるの? 気持ち悪い」
「いや、別に……」
しまった……。顔に出てたか……。
「それにしても、少ししか話していないのに凄いわね」
しみじみとした表情と声音でアナトがそう言う。
「やっぱりって感じよね」
ヤメロ……。
「蒼真の得意ぶん……」
「ヤメロ!」
「……」
思わず叫ぶ。
「分かったわ」
「……ごめん……」
「別に謝ることないわよ。それよりも、修行はそんなに長くかからなそうよね。上司のところへ付く前に終わりそう」
「そうなのか?」
話題が変わり、ホッとする。
「そうね。基礎を教える必要が無いから、コントロールとかそれぐらいでしょ。それなら、そんなに時間がかからないと思うのよね」
「それはいいな」
「そうね。私も楽できて助かるわ」
「それで、その上司というやつのところへ行くのに、どれぐらいかかるんだ?」
「……10年ぐらい……?」
「あ、そう。10年ね……って、10年? はぁ?」
ちょっと待て! 10年ってなんだよ? もしかして、この世界での10年って、俺の世界での10日ってことか? そうじゃなきゃ、おかしいだろ? 10年もどうやって旅をするんだよ? 食料だって、これしかないんだぜ?
「あーちょっと聞くけど、10年って何日?」
「3,650日ぐらい」
「ですよね……」
ということは、マジ10年?
「あの、10年も旅することで間違ってないんでしょうか?」
ちょっと下手に出て聞いてみる。
「そうね。この世界の交通手段って、馬とか馬車みたいなものしかないから、歩きだとそれぐらいかかっちゃうわよね」




