十九
「それって、世界の本質は同じだけど、見る方法が違うからアプローチも違って、結果として科学と魔法に別れてるって事?」
「まぁ、そんな感じね」
言ってることは分かるけど、なんだかどう解釈して良いのか……。
「じゃあまぁ、実践ね。水の分子式は?」
「H2O……うわっ!」
答えたとたん、上から大量の冷たい液体が降ってきた。いったいなんだ? なんでいきなり、こんなことに?
「ね? 分かったでしょ」
「なに? 今の……これ、水?」
「蒼真がやったのよ」
「どうやって?」
「水素と酸素をくっつけて水にしたんでしょ」
「え? マジ?」
水の分子式を答えただけだけど、あれが魔法?
「蒼真は、水が水素と酸素で出来ているって知っているわよね」
「あ、いやそれだけじゃ……エネルギーが必要……って、そのエネルギーが魔法では精神力?」
「そうそう」
「じゃあ、2H2+O2→2H2O で水が……」
今度は、大量なんてのを通り越した量の水が俺の周りに現れた。ヤベーこれ、なんとかしないと水がないところで溺れ死ぬ!
「た、たすけ……」
助けを求めるも大量の水に口が塞がれて声が出ない……。そうだ、移動だ移動。そうすれば、この水から逃げられるはずと思ったが、水圧のせいで足が思うように動かない……。アナトが何かを言ってるけど、もう耳も水の中で何も聞こえない……。俺、また死ぬのか……? 異世界転生しても死ぬってことは、俺の人生ってなんだか悲しいな……。
だんだん、意識が遠くなる……。もうダメなのか……? 水なんだから、どこかに流れていけばいいのに……。ってあれ? 水? 水だよな? ということは……。
「大丈夫?」
あまり心配なさそうなアナトの声が聞こえた。
「ずいぶん、遅かったわね」
水が俺の周りから無くなり、呼吸を整えているとアナトが近づいてきた。
「むしろ、いきなりでよく思い出したと褒めて欲しい……」
そう。水は状態変化するんだ。だから、分子の熱運動に干渉したら水蒸気になってすべて消えた。
「死んじゃうかと思ったわよ」
「なら、助けてくれてもいいだろ」
「もう少し様子を見てダメだったら助けるつもりだったわよ」
「その前に死んでるわ!」
ったく、本当に助けるつもりだったんだろうか? あのまま死んでれば、アナト的には良かったんじゃないのか? 上司だかのところに俺を連れて行く手間が省けるもんな。
「あ、ちなみに蒼真に死なれると困るから、死なないでよ」
「え?」
「分かった?」
「あ、うん……」