十八
もう、色々とかなり手遅れだ……。だが一応、小さな木枠の窓から顔を出している家族に頭を下げる。そして、そのままアナトのところへと向かった。
「これだけは持ってよね」
そう言いながらアナトが差し出したのは、なにか動物の皮で出来た袋だった。
「あなたのご飯よ」
「ご飯?」
袋の中を確認すると、木の実や干し肉などがたくさん入っていた。
「あ……」
ありがとう……。直接、伝えられないのが残念だけど……。帰ってきたら礼を言おう……。ん? 帰ってきたら? そうだよ。帰るだよ。
「アナト、俺、もう二度とこの家に帰れないって本当か?」
「神殿には行かないから大丈夫よ」
「本当か?」
「だって、目的が違うもの。あなたを私の上司に合わせるのが目的だから、神殿に連れて行ったってしょうがないでしょう」
「じゃあ、帰れるのか?」
「終わった後なら、好きにして良いわよ」
「そっか……」
あの家に帰れるんだ……。
「まぁでも、すぐに帰れるってわけではないけどね。修行もしないとだし……」
「あ、そうだ! さっきのって俺も出来るようになるのか?」
「無理」
速攻、ダメだしされた……。
「なんで?」
「蒼真の世界では、次元というものを解明していないでしょう?」
「そりゃまぁ……」
「だから無理」
「そっか……」
ん? なんで次元についての解明が必要なんだ? 魔法って科学や物理とは違うよな?
「まぁ、蒼真は仕組みを理解してるから楽よね」
「仕組み? 理解?」
俺が魔法を理解してるって事か? いや、違うよな……。俺の世界に魔法なんて無かったしな……。
「そうよ。だから、身体が楽でしょ?」
「え? なんか関係あるのか?」
「ある程度、無意識にコントロールしてるのよ」
「そうなの? てか、俺の居た世界には魔法なんてなかったけど、なんで俺が魔法を理解してることになってるんだ?」
アナトは足を止めて振り返った。そして、ジッと俺を見る。俺も、アナトに合わせて足を止めた。
「同じだからよ」
「同じ?」
「そう、同じ」
同じってなんだろう? アナトは、なんだかいつももったい付けて話すよな。もっとこう、スパッ! と話せばいいのに。
「蒼真の世界で言う科学も、この世界で言う魔法も同じ」
「はぁっ?」
今、なんて言いました? 科学も魔法も同じ? どういうこと?
「見方が違うだけなのよ」
「見方?」
「そう。科学という物質世界の見かたで見るか、魔法という精神世界の見かたで見るかの違いだけ」




