十七
そう言ったとたん、アナトが立ち上がり俺の前までやって来た。なんだ? どうするつもりだ? 用心して身構える。
「それでは、ごちそうさまでした」
アナトはお母さんに向かって笑顔でそう言い、軽く頭を下げた。
「じゃあ、行きましょうか」
「行かないって言ってる……痛っ!」
突然、俺の手首が痛んだ。見ると、アナトがしっかりと握りしめている。
「ちょっ! 痛いんだけど!」
痛みを訴えてみるが無視される。
「さっ、行くわよ」
そう言うとアナトはドアに向かって歩き出した。手首を掴まれている俺は、そのまま引きずられるようにドアへと向かう。なんだよ、この馬鹿力……。俺が今、女の子だってのを差し引いたって強すぎだろ?
「痛いって言ってんだろ!」
ドアから出たとたん、猛烈に講義する。すると、アナトの視線が明後日の方向に動いた。いったいなんだってんだ? アナトの視線の先を見ると窓からみんなが顔を出している……。
「え? あ……その……とっても痛かったわ」
なんとか取り繕おうとしたけど、もう無理だよな……。
「ほら、早く持って」
「ん?」
持ってって何をだ? アナトが指さす先を見る。
「なんじゃこりゃーっ!」
アナトの指さした先には、大量の荷物……。これ、どうやってここに持って来たんだ? ってぐらいの大量の荷物……。
「私の着替えだから、丁寧に扱ってよ」
「はぁ? 着替え? こんなにいるか! 捨てろ! 九割は捨てろ! って、どうやってこれを持って来たんだ? 持って来たんだから、お前が持って行けるよな?」
「えぇー! 女の子は、着替え必須でしょ?」
「知るか!」
「鏡見る?」
そう言われ、今の自分の姿を思い出した。もしかしなくても、俺もこれぐらい着替えを持っていかないとダメなのか? というか、この家に着替えなんてあんまり無かったぞ? シンプルな洋服が少しあるだけで、それも家族合わせての数だ。
「というか、こんなの運ぶの無理……」
「しょうがないわね……」
そう言うと、アナトは指ぱっちんをする。すると、今までそこにあった大量の荷物の大半が消えていた。
「え? 今の魔法?」
「違うわよ。別の次元に移しただけよ」
「すげーっ!」
あれって、俺も出来るようになるのかな?
「とりあえず、行きましょうか?」
言われて、まだ家族が覗いていたことを思い出す。
「あ、あぁ……」




