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十五

 返事に困っている俺に向かって、ナーナさんは言葉を続けた。

「お金なら大丈夫よ。紅ならなんとか買えるわ」

 その言い方だと、紅って口紅か? 高価なものなのか? いや俺、自分の世界の口紅の値段も知らないけど……。化粧品は高いってイメージはある。

「ミーナは可愛いから、明るいピンクとか似合いそうね」

 可愛い? 俺は可愛いのか? 身内の欲目じゃなくて? まぁ、この姉とあの母親なら、その可能性は高いんだろうけど、チラッと見た父親らしきのがかなりごつかったからな……。

「とりあえず、町へ行くのはミーナの身体が良くなったらね」

「う、うん……」

「じゃあ、ゆっくり休んでね」

 ナーナさんはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。また何もない部屋のベッドで時間を潰さないといけない。灯りはロウソクぐらいで、部屋はかなり暗い。こんなに暗いのに、ナーナさんたちは平気なんだろうか? オレがいた世界とは、かなり文明レベルが違うみたいだ。いや、俺がいたところでもこういう生活もあるようだし、やっぱりまだ分からない。

 そういや、この身体の死因って何だったんだろう? アナトは丁度空きがあったみたいに言ってたし、ナーナさんもお母さんも何も言わなかった。マジで、ナーナさんの柔らか殺人兵器が死因じゃないよな? 

 しばらく、ベッドに横たわりながら薄暗い天井を見つめる。ロウソクの灯りが揺らぐ度に、なんだか不思議な影を作る。とても静かだ。テレビの音も無い。ゲームの音も無い。そして、とても暗い。テレビの画面も無い。ゲームの画面も無い。蛍光灯すら無い。こんなのは初めてだ。いつも、部屋には明かりが点いていた。テレビもパソコンもゲーム機も、いつもいつも画面に何かが映っていた。

 そういえば、部屋から出なくなってどれだけ経ったのだろう? 何日? 何週間? 何ヶ月? 何年? もう、思い出せないほどの年月なのは分かる。俺は、なにをしていた? あぁそうだ。学生だった。この薄暗い雰囲気のせいか、ふと頭の中に色々と浮かぶ。思考を邪魔するものが無いせいだ。無駄な雑音がない。無駄に動く映像がない。思考を邪魔するものが何もない……。この部屋で変化するものと言えば、ロウソクの灯りの揺らぎだけだ。

 次々と浮かんでくる思考を振り払うように、俺は頭を振る。そして、ゆっくりと目を閉じた。まぁ、死んだのは良い。どうせ、死んだように生きていたんだから……。でも、どうせなら俺の記憶も消してくれれば良かったのに……。新しい世界で、新しく生きていくならその方が良かった。

 今更、うじうじと考えていても仕方がない。セーブポイントなんて無いんだろうし、元の世界に戻れそうもないし……。それよりも、一つ疑問がある。あのとき、アナトは弟の名前を呼んだ。ということは、死ぬのは弟だったってことか? 弟はどうなったんだ? 俺の代わりに生きているのか? アナトに聞けば分かるんだろうか? そもそも、教えてくれるのかどうかも分からないが……。

 色々と考えているうちに、ロウソクの灯りが消え辺りは闇に包まれた。それに釣られ、俺の意識も暗闇へと落ちていった。

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