十七
「早く行くわよ!」
そうそう! 早く行こうよ! 全部忘れてさ!
「は~い!」
イシュタムも返事をした。よし! 出発だ! 俺は、黙ってテクテクと歩く。疲れたけど、疲れたって言えない……。俺が、早く行こうって言ったから……。ん? 気がつけば、ここはどこ? なんか、山奥? ってぐらい、鬱蒼としている。
「アナトここどこ?」
「蒼真的に言えば、旅の扉があるところ」
「ふーん。こんな鬱蒼としたところにあるんだ……。
「なあに? 街なかにでもあると思った?」
俺は、しばし考える。
「ある意味、それもありかなと……」
「そうね。そう言う旅の扉もあるわね」
あるんだ。それにしても、ここは鬱蒼としているな……。
「あと、少し……」
嫌だな……着いたら、アナトとはお別れだよな……。イシュタムは、案外残りそうな予感……? まぁ、ここに来るまで、アナトを説得出来なかったのだから、仕方がない……。最後に、もう一度、説得してみようか……?
「着いたわよ」
ん? 着いた? 着いたって、おんぼろな小屋があるだけだけど?
「さあ、入るわよ!」
そう言って、張り切るアナトの後に続く。中も、おんぼろな家具が置いてあるだけだ。
「ちょっと休む?」
「うん……」
「分かった。じゃあ、この小屋に居てよね!」
俺は、物珍しげに辺りを見回した。俺の実家? この世界に来たときに見た家だって、もっと立派だったよ……。
「ところで、旅の扉はどこにあるの?」
見回す限り、おんぼろな家具しかない小屋だ。俺は、家具の一つに触れた。気色悪い音をたてて家具が動く。えっ? 家具が俺に向かって倒れて来た。ヤバイ! 死ぬ! と身構えたら、アーサーが自分の身を犠牲にして助けてくれた、
「アーサー! 大丈夫!」
「はい。大丈夫です。鍛えてますから……」
でも、痛そうだよ? 俺の回復魔法……効くんだろうか……。
「まぁ! 怪我するなんて!」
アナトが俺を押しのけてアーサーの傷に触れる。みるみるうちに、傷が塞がって行く。
「え? 今の回復魔法?」
「そうよ」
え、えぇー! ちょっとそれ、教えて欲しい! 俺は、アーサーの傷も忘れて、今、アナトが見せた回復魔法に夢中になった。こんな大きな怪我を治せるなんて……。
「教えて?」
「何を?」
「今の、回復魔法!」
俺は、今まさに旅が終わると言うのに、教えてと、宣った。
「べ、別にいいけど……」
「本当? 本当に本当?」