十六
「へっ、あ?」
俺は弁当を見た。
「魔獣退治のときとかは、もっとひどいものを食べているので、大丈夫です」
「あ……ありがとう……」
俺は礼を言うと弁当を食べ始めた。うー、こういうこと平気でするから、俺が女だったらイチコロだよ……。あ、そうだ。そういえば、考えて置くって言ったこと、今話した方が良いよね。もう、目的地は近いんだし……。
「あのね。アーサー。俺、働きたくないんだ……」
アーサーが、何事かというような表情をする。
「えーと……。王妃様になるってことは、働かなきゃいけないんだろ?」
あぁ、とアーサーが納得の表情をする。
「別に、働かなくてもいいですよ。病弱ってことにしておけば良いだけです」
えっ? マジ? 俺、働かなくてもいいの? ロイヤルニートに成れるの?
「ただ、一度、父上に魔法を見てもらう必要がありますが……」
見せる見せる! 魔法で良ければ、いくらでも見せる!
「本当に、働かなくてもいいの?」
「はい」
えっ、マジでどうしよう……。
「俺の家族も養ってくれる?」
「はい」
うわーっ、もう、この人に決めちゃおうか……。と揺れ動く俺……。俺の家族を養ってくれるのは大きい……。決めちゃおうか……。でも……。
「俺……胸が大きい人が好み……」
「女性……ですよね……?」
「うん……」
まぁ、胸の大きな人が、俺を好きになってくれる訳ないけど……。
「だから、本当に形だけなら、考えてもいいかな……」
「本当ですか?」
なんか、アーサーが俺に迫ってくる……。
「考えてもいいかな? だからね」
「ありがとうございます!」
アーサーは急いで弁当を食べる。
「早く食べて、目的地へ行きましょう」
「え? あ、うん……」
なんだかんだ言って、王妃様になるってことは、一番の出世? ってやつじゃない? ロイヤルニートが出来るし、悪くない選択だと思う。俺は急いで弁当を食べる。アナトがニヤニヤしてる。
「蒼真~アーサーと~結婚~するの~?」
「え? いや、考えてみる価値はあるかなーって……」
「ふーん~」
イシュタムが余計なことを聞いてきた。
「男同士~なのに~いいの~?」
「いいの。俺、今は美少女だから……」
「そっか~」
よし! 弁当を食べ終わった!
「ほら、もう出発しよう?」
俺は、アナトとイシュタムを急かす。
「もうちょっとで、目的地なんだろ?」
「そうね……。少し、急ぎましょうか……」
俺は、恥ずかしさのあまり、早く出発することを願う。