七
朝、目覚めるといそいでアナトのところへ行った。アナトは部屋にはおらず、宿屋の入り口にある、飲食が出来るスペースに居た。そんなに心配なのに、なんで? なんで、イシュタムを置いていくの? 時間はまだあるよね? 俺はアナトのところへ行った。
「蒼真……」
「俺、諦めてないから……」
アナトが視線を反らす。
「分かったわ。イシュタムが見つかるまで待つ」
え? 本当? 本当に待ってくれるの?
「最初は、10年かかる予定だったしね……」
そういやそうか……。
「でも、気まぐれな女神だから、もしかすると、他の世界に行ったかも……」
あー、そういやそうだ。俺と弟が間違えられる原因だった……。
「しばらく待って、見つからなければ……」
「そうね……」
俺としては、どこか他の世界へ行っちゃったなんてことは無いと思いたい。なんで、俺達と同行したのかって聞いたら、ご飯が食べられるからって、言ってたし……。
「うん……」
俺は、朝ごはんを食べる。アナトが用意していたものだ。この街の名物だろうか? 美味しい。
「それにしても、本当にどこへ行っちゃったのかしら……」
アナトは溜め息を吐いた。俺も溜め息を吐く。
「ただいま~」
俺とアナトが声のした方を見る。そこには、イシュタムも姿があった。
「イ、イシュタム?」
「あんた、今までどこへ!」
イシュタムは、アナトの質問に応えるより先に、俺の食べているものを見る。
「た、食べる?」
俺が、イシュタムの視線に耐えられなくなり、思わず聞いてしまった。
「うん~」
そう言うと、イシュタムは俺から食べものを奪うようにして、食べ始めた。
「美味しい?」
「うん~」
突然帰って来たイシュタム。一体どうしたんだろう?
「そこ行ってたの? って、聞いてるの!」
あぁ、アナトが切れる寸前だ……。
「ん~」
イシュタムが何かを考える。
「必殺技~の練習してた~」
「はぁ?」
あ、その返事は意味分かるぞ。俺も思わずそう突っ込んでいた。
「蒼真が言っていた~ブラッティ・ローズの練習してた~」
「はぁ?」
今度は俺が突っ込む。
「俺、そんなこと言ってた?」
「言ってたよ~」
もしかして、あの眠いときかな? 正直に言うと、覚えていない……。アナトがこっち見てる。なんとかしないと……。
「え、えっとー。だとしても言って行かない? 普通……」
「そうなの~?」
「うん……」
イシュタムは、美味しそうに食べものを食べている。
「もう~全然食べてないから~お腹へった~」