一
ふむふむ。良い宿そう。特にお風呂入り放題は、アナトたちの目の色が変わるぐらい気に入ったみたいだ。俺、男だったから、多少は風呂に入らなくてもいいんだけど……。特に、ニートだったからさぁ……。あんまり風呂に入って無かったし……。あ、今はちゃんと入っているよ! まぁ、一人だけどね……。アナトたちと一緒に入る訳にはいかないし、ましてやアーサーとはな……。一応、身体は女だし、心は男だし……。はぁっと俺は溜め息を吐く。やっぱ、一人で入るしかないか……。
さて、風呂も入ったし、寝る支度もしたし、後は、寝るだけだ! そう考えながら廊下を歩いていた。ふと、アナトの姿を捉えた。
「なにしてんの?」
アナトが振り返る。なんだろう? なにか思い詰めているような?
「蒼真」
「外、見てるの?」
俺は、アナトに近寄った。
「んー、半分正解かな……」
もう、半分はなんだろう? 俺は、不思議そうな顔をする。
「もう半分は、蒼真、貴女のことを考えてた」
俺のこと? なんだろう?
「俺のことって何?」
「ふふっ」
アナトが何か意味有りげ? に笑う。
「色々あったなって……」
外へ視線を向ける。外には、何もない。
「色々って?」
「そりゃもう、色々よ!」
「あー確かに、色々とあったな……」
「でしょ!」
俺は頷き答える。
「なんで、今頃?」
「なんでって……。任務が終わったらもう、会えないからね……。だから、色々と思い出していたの」
「え?」
会えない? 今、会えないって言った?
「会えないって、どういうこと?」
「だって、私たちは元々違う次元で暮らしてるのよ。任務が終わったら、そっちへ戻らないと……」
「いや、だって、戻らなくてもいいんだろ?」
だって、もしアーサーのプロポーズされたら、ここで暮らしてもいいって!
「そうだけど……。でも、ここに残ったとして、どうやって暮らすの?」
「それは……」
まだ、自分の道も定かでは無いのに、答えられなかった。
「まぁ、蒼真が養ってくれるならいいけど?」
アナトがいたずらっぽく笑った。
「いいよ。俺が養ってやるよ!」
「期待してるねー」
こんなことを言っているけど、帰るんだろうな……。帰れば、とりあえず、生活できるもんね……。あぁ、俺、なんで今、財力が無いんだろう……。アーサーみたいにこの国の王子様っていうなら話は別だろうけどさ……。