十六
「お嬢様は、手元にあった花瓶で殴られたとか伺いましたが、本当に大丈夫でしょうか?」
え? 花瓶? 花瓶ってあの花瓶? あそこにあったのって、立派なやつしかなかったけど……。よく生きてたな……、俺……。
「あ、いや……。ところで、ミーナ……さんは?」
「お嬢様は、部屋に閉じこもっております……」
部屋に籠もってる? なんで? 俺は考えてみる。考えてみるが、思いつかない。
「とりあえず、ミーナさん? の部屋へ行ってみますか?」
「よろしいのですか?」
「ん? ダメなの?」
「い、いえ……。そういう訳では……」
執事さんが何か困ってる? なんだろう?
「あの、お嬢様は、貴女様へ怪我をさせてしまいましたし……。このまま帰られた方が……」
あぁ、そういうことか……。
「大丈夫。それより、なんでそんなことをしたのか知らないと、また、繰り返してしまう」
執事さんがホッとしている。
「では、ご案内いたします」
「うん」
執事さんが歩き出した。俺は、その後を付いていく。少し歩く。金持ちの家はこれだから……。ちょっと金持ちに対する恨みつらみが出てきた。でも、俺……転生する前は、ニートだけど普通に暮らしていたんだよな……。貧乏なのは、転生後……。ちょっと、恨みつらみとは違うか……。うん、純粋に羨ましい……。
執事さんが一枚のドアの前で足を止め、ノックをした。
「お嬢様」
ノックをし、呼んだけど返事が無い。執事さんは、もう一度、ノックをした。
「お嬢様。開けますよ」
執事さんがドアノブに手をかけドアを開けようとした。
「だめ! 開けちゃだめ!」
中から、声がする。開けちゃダメって……。
「えっとミーナさん。私は大丈夫だから……」
俺がそう言ったのち、しばらく何も聞こえない状態になった。そして、ゆっくりと扉が開く。
「良かった。開けちゃダメって言うから、何かあったのかと……」
ドアの影に隠れるような場所に居た。
「……さい」
「ん?」
「ごめんなさい……」
あぁ、誤っているのか……。
「もう、気にしていないよ」
「でも……」
「気にしてないったら、気にしてない」
俺は、部屋の中へと入った。うおーっ、ここがお嬢様の部屋か! 広い! 高そうなものある! 立派! 俺は物珍しげに、辺りを見回した。
「すごい! すごい部屋だよ……」
「そ、そう……?」
「うん! すごい!」
なんか、俺もそうだけど、さっきのこと、忘れているみたいだ。これも、部屋がすごいから!