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楽園解放 二

『海賊達が酒場で好き勝手にしているという話を聞きつけると、王子は兵士を連れて酒場に行きました。酒場に着くと、コワモテの海賊達が女性の店員の腰に手をまわし、お酒を勝手に飲んだりしていました。

 王子が入って来たのを見て、海賊達はニヤニヤしたり怖い顔で睨み付けて来ました。王子は怯むことなく、剣を抜かず鞘に入れたまま海賊達に襲いかかりました。

「貴様等を成敗する!」

「ぐわーっ!」

 普段から修練を積んでいた王子の前に、ただ好き勝手暴れていただけの海賊達はまったく歯が立たず、バッタバッタと倒れて行きました。

「逃げろーっ!」

 数人が兵士達から馬を奪い、港に向かって逃げて行ったので、倒した海賊達は兵士に任せて、王子は走って逃げた海賊を追いかけて行きました。港に着くと、船に乗り込んだ海賊達を追いかけ、なんと王子はたった一人で海賊船に乗り込んでしまいました。

 海賊船が出航してしまうと、海賊達が出て来ました。もともと船に乗っていた海賊達はまだたくさんいたのです。海に浮かぶ船の上で、王子は海賊達と睨み合いました。

「噂通り無鉄砲な奴だ、ここまで付いてきやがった」

 髭面の親分が出て来て王子を見て言いました。

「こうなったらお前を餌に王様からお金を巻き上げる事にする。ここは海の上だ、逃げられないぞ。アジトに行ってからまた本土に戻るまでの間、この縄でおとなしくしてな」

 海賊達に囲まれた王子は、海賊達を鼻で笑いました。

「そんな隙だらけの構えで、よく偉そうな事が言えるな!」

 海賊達に躍りかかった王子は次々と海賊達を倒してしまい、残ったのは親分と、船を最低限動かせる非戦闘員だけでした。

「さあ、他の海賊がいる島へ連れていけ」

「は、はい……」

 王子は海賊達の予想していたよりもはるかに強かったのです。


 夕方になり、海賊達が一番多く集まる島に着くと、王子は船を降りて叫びました。

「俺は本土の王子、ドミトリだ! 出て来い海賊共! 俺が成敗してやる!」

 声を聞きつけた海賊達が王子の周りに集まりました。そして海賊で一番偉い大親分と、その右腕として働く剣士が出て来ました。

「俺は海賊の大親分、バルフレアだ。こっちは俺の右腕として働くチェイスだ。腕自慢の王子よ、このチェイスと決闘しろ」

「いいだろう!」

 勇敢な王子はチェイスと互角に渡り合いました。夕日が海を赤く染める砂浜で二人は激しく戦い、剣がぶつかる激しい音があたりに響きました。それはまるで一つの美しい芝居のようで、周りの海賊達も思わず息を飲んで勝負を見守りました。

 なかなか勝負が付きませんでしたが、ついに王子が放った渾身の一撃がチェイスの剣を弾き飛ばしました。弾き飛ばされた剣は光を受けて輝きながら回転し、砂浜にザクッと突き刺さりました。

「勝負ありだ!」

 ここまで単身乗り込んで来て、海賊達の間で一番強いと噂のチェイスを倒した事で、海賊達は王子をすっかり見直しました。

「すげえぞ王子!」

「やるなあ! 勇気あるよあんた!」

「大したもんだ!」

 拍手と口笛に包まれてドミトリは困惑しました。バルフレアもすっかり感心して手を叩きました。

「ドミトリ王子! あんたこそが真の勇者だ! 俺はあんた程大した男を見た事が無い!」

 バルフレアは両手を広げて笑顔で言いました。

「俺はあんたに惚れた! どうだろう? あんたのその力や勇気を分かろうとしない島の連中より、俺達と一緒に生きてみないか?」

「どういう事だ?」

「俺達は力ある者、勇気ある者に敬意を示す。あなたは島では乱暴者だと言われ、弟君や妹君に比べて嫌われてると聞く。そんな奴等の事はもう忘れて、俺達を従えて海で豪気に生きようじゃねえか!」

「俺が海賊に?」

「そうだ! あんたは大海賊になれる! 間違いない! ここより北にはまだまだ島や海が広がってる。今まで北世界にナワバリを広げた海賊はまだいないんだ。あの島を拠点にして、世界中を冒険する大海賊団になろうぜ!」

 ドミトリは少し考えた後、頷きました。自分が海賊を倒そうと思ったのは、そもそも自分がすごいと他人に認められるためでした。別に国民のためではありません。世界を冒険して人々に認められるというのも悪くないなとドミトリは思いました。

「いいだろう! お前達は俺について来い! あの島は俺の大冒険の開始地点になるのだ!」

「ドミトリ海賊団万歳!」

 バルフレアは宴を開き、新しい大親分ドミトリの誕生を祝いました。ドミトリは夜の海を見ながら、これから始まる大冒険にワクワクしながら新しい仲間達とお酒を飲みました。

 第一章、終わり。』


 母親は本を閉じると、子供のご飯の準備をするために立ち上がった。

「とりあえずここまでね」

「ありがとうママ」

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