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大根王子Ⅱ 二

「ラウル! 海岸にいた男を連れて来ました!」

 ジョエルにつつかれてアルベルトはラウルと呼ばれる青年の前に座った。アルベルトより少し年上だろうか。ラウルはチラリとこちらを見た後、刃に視線を戻した。

「今夜は雨が降りそうだな」

「え?」

「この剣は私の祖父が若い頃、遠い日本という国で侍から譲り受けた物だ。刀と言って、日本の戦場では最も使わている武器の一つだ。知っているかね?」

 アルベルトは首を振った。

「いえ、知りません。知り合いに極東から来たと言っていた者がいますが、刀は持っていませんでした」

「そうか。ジョエル、彼の縄をほどいてやれ」

 ラウルは刀を鞘に納めると、篝火の横に置いてあったやかんからカップにコーヒーを注ぎ始めた。黒い布の服の衣擦れの音がして、首飾りの動物の牙がお互いぶつかってカチャリと音を立てた。

「え? いいんですか?」

「彼は奴等の一派じゃない。首に入れ墨も無いし、仲間を笠に着て威圧するような態度も見せない。最近この近くで船が難破したのを見た。おそらく彼等の仲間だろう」

 ラウルはアルベルトの前にカップを置いた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 ジョエルがナイフを出し、アルベルトの縄を切った。

「流れ着いた君の仲間は残念ながら皆事切れていたよ。勝手ながら埋葬させてもらった」

「そうでしたか……」

 今回の旅に妻のカタリナは同行していない。不幸中の幸いだった。アルベルトは手首をさすりながらカップを持ち、コーヒーを一口飲んだ。少し苦いが文句は言えない。

「僕はアルベルト。アルベルト・ファルブル。フェルト国の王です。南国に視察に行く途中で船が嵐に遭い、気が付いたらこの島に」

 後ろのジョエルが王と聞いて驚き、気まずそうな表情をしている。

「王? 北の国王はずいぶん若いんだね」

「最近即位したばかりです。父が亡くなったので」

「そうだったか」

 二人が静かに会話を続けていると別の青年が小屋に飛び込んで来た。

「ラウル! 大変です! イサベラが奴らに捕まった!」

「どこだ?」

「ユン村です! マルコ達が襲われて何人か殺られました!」

 ラウルは日本刀を腰に差して立ち上がった。

「行くぞ。君も来るといい。今この島がどうなっているのかを教えてやる」

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