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空の王者と味惑の魔人 二十三

 リンは暗闇の中で意識を取り戻した。

(何も見えない……何故だ? どこに戻った!?)

 自分の腕の中で赤ん坊の泣く声がする。

「どこだ……どこだ……!」

 外から男と女の重なっている奇妙な声がした。

「おおおお!」

 自分の周囲の瓦礫が舞い上がり、世界が光を取り戻すと、左前方に右半身を燃え上がらせたカイル・ファルブルが立っていた。

(こ、この炎はまさか!!)

「見つけた……ぞ!」

 カイルが炎をうねらせながらゆっくりと近付いて来る。火の粉と共に風が吹き抜けてリンの髪を揺らした。

 リンは二十年前のリア国のフィーンに戻っていた。

(この魔女だったのか!)

 柱の陰からロキ・ファルブルが現れ、カイルに触れようとしたのを察してカイルが急に飛び退いた。

「チッ勘がいいな。いや……炎が探知したのか?」

「お前……どうしてここに」

 ロキはカイルが何か言う前に土を掴んでカイルに投げ付けた。カイルが炎で土を焼くとロキは姿を消していた。カイルは笑い出した。

「そうかよ! お前、俺を殺しに来たって訳だ! 俺がリア国を滅ぼしたのが気に入らないんだな!? いいじゃないか別に! 敵が何人死んだってさあ! お前も散々やって来た事だろうが!」

 ロキからの返事は無い。

「話すつもりも無いのか! もう俺は標的って事か……クク……ククク! なめやがって……!」

 カイルは周囲に首の竜を五頭出した。

「いいだろう! お前も消してやる! ぬいぐるみはよく燃えるだろうなァ!!」

 ロキとカイルが戦い始めた。

 腕の中でユリアンが泣いている。

(ユリアンが生きてる)

 ユリアンのぬくもりを感じた。

「無駄だって言ってるだろうが!」

 カイルがロキのナイフを炎で叩き落した。ナイフが瓦礫に当たって回転し、リンの足元の地面に突き刺さった。

「くそっ! 面倒くせえ野郎だ!」

 カイルが悪態をついているのが見える。

 リンはナイフを見てごくりと唾を飲んだ。

(この時はまだ魔法を持っていなかった。今死んだらもう戻れない……でも)

 カイルが炎の怪物を出してロキを探し始めた。カイルの体から炎が無くなった。すぐ側のカイルはリンの事をまったく気にしていない。

(ユリアンを守るんだ!)

 リンは左手でユリアンを抱いたまま右手でナイフを逆手に掴んで引き抜き、勢いよく振り上げてカイルの背中に突き刺した。

「ぐあああああ!」

 リンはナイフを引き抜き、持ち替えてまっすぐ構えると気迫を込めて叫んだ。

「負けないッ!!」

 ロキも建物から飛び出して来た。

「こ、このアマああ!!」

 カイルがリンを睨み付けて剣を振り上げた時には既にロキが肉薄していた。

「しまっ……!」

 ロキがカイルに触れると、カイルがぬいぐるみに変わって地面に転がった。

「く、くそ! 戻せ! 戻せよ!」

 ロキの魔法でぬいぐるみにコーティングされた状態では、カイルの右半身の毛並みがざわざわと動くだけで炎が出なかった。

「もう終わりだカイル。後はジンに任せろ」

「く、くそお!」

 カイルはキーキー言いながら動いている。ロキはカイルを掴むとその場に座り込んだ。

 リンもナイフを捨ててふーっと息を吐いた。

(これでこの魔女がシャロン様に取り憑く事も無い……終わったんだ)

 ロキがリンに話しかけてきた。

「助かったぜ」

「ロキ様」

「あんた何者だ? あの状態のカイルを前にしたら普通怯えると思うが。兵士か?」

「いえ……」

 ユリアンを見るとこちらを見て微笑んでいる。リンもユリアンを見てにっこりと微笑んだ。

「ただの……母親です」

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― 新着の感想 ―
[良い点] これ一番素敵なパターン!! ロキさんとカイルさんのことは、もうさすがに完全に諦めてました……。 リンさんの授かった魔法……奇跡だと思う(* ゜Д゜)
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