空の王者と味惑の魔人 十六
リンの命令を受けた女兵士シャーネは、王宮でシャロンに張り付き常に様子を窺っていた。シャロンは廊下で声をかけられた大臣と話し込みやがて指示を与える光景を何度も目にした。あらゆる場所で書類に目を通し、色々な業種の者に指示を与える。ジンという友好のシンボルと実務のシャロン。実にいい組み合わせでこの国は回っているのだなと感心する程だ。
偵察は午後も続き、シャロンはキッチンに行くとコックと何やら話し、飲み物を飲んだ後、何か瓶に入った飲み物をもらっているようだった。喉が渇くので飲み物を持ち歩くのだろう。
瓶を持ってシャロンが王宮を出た。シャーネが続くと、シャロンは街中を進み牧場の方へ歩いて行く。
(ここは……例のボヤが出た牧場。シャロン様自ら調査に来る程の事か?)
シャロンはしかし牧場主とは会おうともせず、木造の建物の角を曲がると、ボヤで燃えた物を集めたごみ捨て場に歩いて行き、灰になった黒ずんだごみの山の前で立ち止まった。シャーネはシャロンが歩いて来たルートをそのままなぞって歩いて来て、建物の陰で足を止めてシャロンの様子を窺った。ふとシャーネは違和感を感じて鼻をヒクつかせた。角の柱がシャーネの顔のあたりから何かで濡れて下の方へ垂れていた。
(ん? これは何の匂いだ?)
シャロンがこちらを振り返った。突如シャーネが立っているすぐ右の壁からゴオッと火が燃え上がり、シャーネの上半身に火が燃え移った。
「ぎゃああ!!」
シャーネはパニックになり地面に転がり、火を消そうともがいた。シャロンが笑いながら近付いて来る。
「どこの子猫ちゃんかしら? フフ」
なんとか火を消し、肩で息をするシャーネにシャロンが瓶からバシャッと液体をかけた。
「!?」
先程の匂いはこの液体だ。
「こ、これは……牛乳? 一体何を……?」
「さようなら」
シャロンが指を鳴らすとかけられた牛乳が激しい炎に変わってシャーネを焼き尽くした。
シャロンはシャーネがいた場所にある灰を踏みつけて城に戻って行った。




