空の王者と味惑の魔人 十二
「大変ですジン様!」
謁見の間で玉座に座っているジン、その前に椅子に座っているユリアン、リンのもとに青年が飛び込んで来た。
「君は確か……ニックだったか?」
青年は南西のカルの街の商人ニックだった。ジンがフェルトの王になって以来何かと世話になっている若者だ。
「カルの領主セイン様が反乱軍に殺害されました!」
「な、何だって!?」
ジンは玉座から立ち上がった。ジンはカルの街の仕事を取り仕切っている貴族のジャミルの安否が気になった。
「ジャミル様は無事なのか?」
「ええ、視察で留守だったので無事でした。ジャミル様もまだ知らないとは思いますが滞在先で連絡があるでしょう」
ジンは安心して玉座に座り直した。ユリアンが口を挟んだ。
「それで? カルの街はどうなったんだよ? 一般人に被害は出たのか?」
「いえ、それは大丈夫です。しかしセイン様がジン様に忠誠を誓っていたのを気に食わないと思っていた過激な連中です。彼らはドーンの土地は我等の物だと主張しています」
リンが静かに尋ねた。
「ハクトウもそれに従ったということか?」
「そのようです。ハクトウの領主ガン様もどちらかといえばドーン寄り。利害が一致した今再びカルと手を組んだようです」
「んで? この後どうしようっての?」
「どうって……」
ニックは両腕を広げた。
「金塊ですよ! あの金塊はドーンにあった物です。彼等はすぐにでも金塊を取り返しに来るでしょう! まずいですよこれは!」
「取り返す……だと?」
「この国は兵士の武器が彼等より遅れています。彼等は皆銃を持って戦える戦士達です。今カルとハクトウに一斉に攻め込まれたらひとたまりもない! 早く何か手を打たないと!」
ジンは玉座に背を預けて眉毛の上を掻いた。
「そう言われてもおとなしく金塊を返して……それで終わるとは思えないな」
「し、しかし攻め込まれたら市民に大きな犠牲が出ます!」
「ふざけやがって!」
ユリアンが立ち上がって突然叫び、ニックはギョッとしてユリアンを凝視した。
「俺が取って来た金塊を奪いに戦争を吹っかけて来るだと? なめやがって! 俺が今から直接乗り込んで誰の物か教育して来てやる!」
ジンもギョッとしてユリアンを凝視した。
「おっおい待てユリアン!」
ユリアンは足早にツカツカと歩き出し、謁見の間を出て行こうとした。
「おい! 誰かユリアンを止めろ!」
ジンの命令を受けて兵士達が慌ててユリアンの前に立ちはだかったが、ユリアンに触れた途端兵士達はふわふわと持ち上がってしまい誰もユリアンを止められなかった。
「ジャ、ジャック! ジャックはいるか!?」
ジャックは近くのテーブルでブドウをつまんでいた。
「いますよ」
「ユリアンを止めてくれ! 一人で乗り込むなんて危険すぎる!」
ジャックは笑ってブドウを食べた。
「大丈夫ですよ。王子を本気で怒らせるなんて馬鹿な連中だ」
「な、何をそんな呑気に……」
「ジン様」
リンは静かに声をかけると椅子からゆっくりと立ち上がった。
「な、なに?」
「ユリアンの事は心配いりません。私もハクトウに行って参ります。一週間程で片が付くと思いますので、こちらで万が一の防衛の準備だけお願いいたします」
「え?」
「では」
リンは音も無く歩いて謁見の間を出て行った。
「だそうです。あの親子を敵に回して生き残れる奴なんていませんよ。これジン様の魔法の食い物程じゃないですけど美味いですよ……じゃ俺もこれで」
ジャックがジンとニックにブドウを渡して出て行くと、残された二人はブドウを持ったまま立ち尽くしていた。




