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空の王者と味惑の魔人 十一

 ユリアン達が山の穴から出て来ると、穴は山の西側の山頂近くに開いていて、入って来た洞窟の入口とは反対側だった。夕日が西から山を赤く染めていた。ユリアンは目を細めて向こうを見た。夕日が眩しくてよく見えないが人の手の入っていない広大な森とクネクネした川が続いている。

「向こうにも街とかあるのか?」

「いえ、確かここからしばらくは森が広がっているらしいですね」

「ふうん。まあいいや山の上から向こう行くぞ」

「ういす」


 洞窟の入口の穴の前にある船の上で、兵士がボウガンを抱えて船の縁に背を預けて座っていた。夕日は山の向こうにあるため、彼には日が当たらず暗くなって来ていた。敵の攻撃が止みしばらくうとうとしていたが、リン・ファルブルが近付いてくると急いで目を開けて頭を小さく振った。

「もっ申し訳ありません!」

「いい。休んでいろ」

「はっ……」

 後ろから伝令の兵士がリンに声をかけた。

「リン様、山頂からユリアン様が!」

「山頂から?」

 リンが上に目を凝らすと、ユリアン達がふわふわと飛んでいるのが見えた。

「歓声を挙げないようにすぐ指示を飛ばせ」

「はっ?」

「脱出に支障が出ないよう敵にできるだけ気付かれないようにする。早くしろ」

「はっ!」

 伝令の兵士が走って行った。リンは座っている兵士に笑いかけた。

「よし、聞いたな。今から離脱するから静かに準備を整えろ」

「はい。やりましたねリン様」

「ああ」

「ユリアン様やジン様の魔法は素晴らしいですね。リン様も魔法をお持ちなのですか?」

「私か? 私には魔法は無い」

「そ、そうなのですね。失礼しました」

「私には剣があればいい。相手を殺す剣さえあれば」

 若い時に故郷を失い、斥候や偵察部隊として二十年余りを過ごして来たこの女性の人生はどんなに過酷だったのだろうと兵士は思いを馳せた。兵士は無表情のリンに恐る恐る質問した。

「あの……聞いてもいいでしょうか?」

「何だ?」

「リン様は……どうして斥候を? 王宮内におられないのですか?」

「ジン様の敵は外から来る。今の所はだが。なら剣が先にあるのは当然の事だろう」

 ユリアンが金塊を船に積み上げながら降りて来た。

「ようお袋! びっくりする位あったぜ金塊! あとはずらかるだけだ!」

「よくやったなユリアン。話は終わりだ。引き上げるぞ」


塹壕の中で煙草を吸っていた青年に同世代のもう一人が近寄って来た。

「よお、俺にも一本くれないか?」

「ああいいぞ」

 男に煙草を一本渡し、男が煙草を咥えるとライターで火を点けてやった。

「ふー。今日はもう戦闘は終わりかねえ」

「夜の方が攻めやすいだろ?」

「そりゃそうだけどよ、向こうには騎士がいるんだ。近付きすぎて接近戦になったら俺達には勝てっこねえ。飛び道具を山程持ってるのがこっちの利点だ。上の連中はじわじわ消耗戦を狙うだろうよ」

「なるほど」

「ま、それが上手くいってもまた内輪で揉めるんだろうけどな」

「違いねえ」

「いつになることやら」

 二人で暗くなった空を見て煙を吐いた。すると空には大きな船が三隻、自分達の頭上をふわふわと飛んで行く所だった。

「あれ!?」

「あ、しまった! あいつらもう逃げてるじゃねえか!」

 二人は塹壕からガバッと出ると、船に気付いた者達が同じくあちこちから呆然と立っているのが見えた。

「やられた……」


 夜も更けて、カルの街の領主の館では今、反乱軍が領主の館を急襲し、領主を護衛していた兵士達は射殺され、最後に残った領主が向けられた銃を前に震えていた。

「や、やめろ……」

「売国奴め」

 トムが引き金を引くと領主は玉座に崩れ落ちた。

 トムが禿げた頭をさすり、謁見の間に入って来る中年のリーダーを迎えた。

「よし。首尾よくいったようだな」

「ああ。後は金塊を取り返すだけだ」

「ゴン達と合流しろ。これからビルギッタを攻めるぞ」

 ユリアン達が金塊を持ち帰る頃、カルとハクトウは再びドーン国として独立を宣言した。

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