空の王者と味惑の魔人 十
「え? マジ? こ……これ全部そうなのか? む、向こうも? あそこもか?」
ジャックがようやく立ち上がり、壁の近くに転がっている金塊を手に取った。
「し……信じられねえ……何だこりゃ……」
地面のあちこちにも金塊が落ちている。
「おーい! みんなこっちに来い! こっちが本命だ!」
私兵達が穴をくぐってこちらに来ると皆感動の声を上げた。ユリアンがリズミカルに手を叩き始めた。
「よし! 俺達の勝利だ! 一曲踊ろう!」
「いいっすねえ!」
ジャックが低音部分を歌ってリズムを取り、みんなで踊りながら笑顔で合唱した。
「最高の気分だぜ!」
「酒あるか!?」
「ありまーす!」
肘を絡ませてくるくる回る者、岩場でステップを踏んで転ぶ者、歌いながら金塊を抱きしめる者、様々な形で勝利の時を楽しんだ。
三曲ほど楽しんだ所でユリアンが手を叩いて一旦場を締めた。
「さて、そろそろ出るか! 続きは帰ってからだ! 早くしねえとお袋達が死んじまうからな!」
「ういす!」
ユリアンのもとに次々と金塊が集められ、どんどんふわふわと浮き始める。作業をしながらジャックが首を傾げた。
「しかしなんで金塊なんでしょうね?」
「ん?」
「いやさっきの壁みたいに金塊が積んであるなら誰かが隠したんだろうなって思うんですけどね。普通金てえのは壁に鉱石として埋まってる物なんじゃないすか? 金塊に加工してあるのに無造作に積まれまくってるのはちょっと変ていうか。あそこなんか普通じゃ届かないじゃないすか」
「んー。大昔の誰かが保存してたんじゃねえの? ほら、伝説の古代帝国とか……」
「そんなの聞いた事無いっす」
「うーんそうだよな……」
ジャックが見回すと、まるでツタなど植物があった位置に金塊があるように見えた。
「言われてみれば変だな。これじゃまるで植物が金塊になったような……」
自分で言ってハッとなった。
「まさか……魔法か? 魔法で金塊を作った奴がいるのか?」
ジャックが目を見開いた。
「そうか! そうっすよ! 王子みたいに魔法で植物を金塊に変えた奴がいるんじゃないすか!?」
「可能性はあるな……あ」
「何です?」
「冒険家のマイケルがそうなんじゃねえか?」
「あ……」
ユリアンは金塊を空中でクルクル回転させながら考えた。
「マイケルが向こうの道から洞窟に入って来るとするよな。土砂で塞がってた道だ。退路を断たれたマイケルが行き場を失ってあそこで火を起こし、時間を潰すうちにやがてこの空間に気付く。こっちに来て天井を見たマイケルは帰りたいという強い思いに駆られ、魔法が使えるようになったって可能性はある。魔女が気付けばだけどよ」
「帰り道はどうすんすか? マイケルは一回は外に出てるんですよね?」
「んー……金塊を足場にすれば出られるんじゃねえか? それによ、もしそれが無理だとしてもここから雨が流れ込んで洞窟自体の水位が上がったりするとしたら? それなら俺達が来た道を泳いで登れば帰れるだろ?」
「おー。名推理っすね! それ正解かもしれないっすよ?」
「おっそうか? じゃあこういうのはどうだ? 金塊を作る魔法を手に入れたマイケルは、魔法が外でも使えるか分からないので金塊を一応何個か持ってあそこから出た。そしてそこで野党に見つかってしまった。金塊まで案内しろと言われ、せっかく出て来た道を引き返し、入口の所に案内すると殺されてしまった。野党達は入口から入って来たがさっきの斜面の罠にかかり命を落としてしまった。洞窟に入らずマイケルから奪った金塊を売りさばいた下っ端のせいで俺達がこの山の存在を知る事になった」
「なるほど……」
「まっ確かな事は分からねえし確かめようがねえ。とりあえず今回はこれで良しとしよう」
「そうすね」
「よし! 引き上げだ! あそこから出るぞ!」
ユリアンが空を指差して、金塊とユリアン達がふわふわと空へ浮かんで行った。




