空の王者と味惑の魔人 七
その日、何日にも渡って繰り広げられていた戦いの均衡がついに破られた。
南北を横切っているようにそびえている山、その東側の広大な麓で展開されていた戦いは東の空から飛んで来た船三隻によって新しい展開を迎える。
「見えたぞ! あそこが黄金がある洞窟だ!」
ユリアンが船の上から叫んだ。
いくつもの集団が集まっている戦場の上を空気を引き裂く音と共に船が通り過ぎ、洞窟の近くまで来ると、馬に乗った騎士達が船から飛び出して来た。騎士達は空中を滑空し、地上に辿り着くと勢いを殺さず疾走を開始した。
船は騎士達を追い越すと洞窟の入口にたどり着き、なめし革でできた砂を詰めたバリケードを上から大量に落とすと一旦方向を変えて離れた。騎士達は前を行っていた野党の数人を槍で突き倒しながら走り、入口前を掃討すると、バリケードの裏に素早く隠れて戦場に向き合って待機した。船が向きを変え再び洞窟の入口に向かって落ちて来て、騎士達の後ろに入口に横付けするように着地した。
戦場にいた全員が呆気に取られているうちに、船が三隻、コの字に降り立って入口を塞ぎ、さらにその前にバリケードを設置した騎士達がそびえていた。
「な、なんだあの船は!? 空を飛んで来たぞ!」
「く、くそ! このままじゃ奴らに先を越されちまう! 撃て撃てぇ!」
皆が一斉に船に向かって銃や弓を持って弾と矢を放ったが、大きな船の脇腹をつつくだけでビクともしない。船の上から覗いて来る兵士がボウガンで反撃すると次々と敵が倒れた。
「くそ、だめだ! 奴等からはこちらが丸見えだ!」
敵は撃たれないように塹壕からチマチマと攻撃するだけに留まり、麓であちこちに放たれていた弾や矢は船に集約され、状況は完全にファルブル家対その他の集団という情勢になったが、それでも鉄板で補強された船やバリケードを築いたファルブル家が圧倒的に優勢だった。
「よし、ユリアン頼む」
「あいよ」
続いてユリアンがひょいひょいと弾薬やテント、バリケードの追加など大量の備品を掴んで浮かせると、ふわふわと騎士達の近くまで飛んで行き、簡単な要塞を築けるほどの物資があっという間に最前線の騎士達のもとに揃った。ユリアンは敬礼する騎士達に向かってひらひらと手を振った。リンは状況を見てうなずくと船の上にいる兵士に叫んだ。
「我等は船の上から地上の騎士達を援護する! 入口に敵を近付けさせるな!」
「はっ!」
「ユリアン! 中にも既に何人か入り込んでいるかもしれん! 油断するなよ!」
「分かってるって! じゃあな!」
ユリアンと私兵達はふわふわと地上に降り立つと、洞窟に入って行った。




