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空の王者と味惑の魔人 六

 ドーン国のカルの街で育った青年、ゴンはドーン国が領主の独断でフェルトに併合されるのをただ黙って見ているしかなかった。ハクトウも共にフェルトになり、領主が何かを渡されてフェルトの要求を飲んだのは見え見えだった。

 ゴンはフェルトに併合された後早くからドーン人だけで地下組織に所属し、さらに西からやって来たハンター達と親交を深め、ライフル銃も手に入れて使い方を教わった。射撃の腕も訓練を重ねるうちに上達した。

 黄金が見つかってゴン達は当然のごとく動き出した。

(この土地はドーンの、俺達ドーン人の物だ。必ず取り返してやる)

 ゴンは革の鎧を着て、他の者達と同じように腰にライフル銃を差し、馬の鞍を手でしっかりと点検して馬に跨った。内海の向こう側のキャンプにはドーン人の集団が武装して今まさに出発する所だった。

 リーダーも馬に跨り、腕を上げて叫んだ。

「よし! 行くぞ! 野党達には先を越されたが、俺達も今準備が完了した! 俺達が黄金を手に入れ、フェルトからこの土地を取り返す!」

「おお!」

 馬が一斉に走り出し、砂埃が舞い上がる。内海の向こうに広がる山の麓の戦場に向かって、晴天の下、樹木がまばらに生えている荒野をドーン人の一団が疾走し、馬の走る重い音が辺りに響き渡る。

(フェルトの奴等より俺達の方が武器も上だ。あいつらはまだ弓しか持っていない蛮族共だ。全員銃を持っているし本気になった俺達が負けるはずが無い)

 しばらく馬で走り、木が途切れた開けた草原に出ると、やがて風を切るゴオオオという音が後ろから聞こえて来るのに気付いた。

「ん? 何だ?」

 ゴンが後ろを見ると、大きな帆船が三隻、地上の樹木を揺らしながら空を飛んで来た。

「な……何だありゃあああ!?」

 船が自分達の頭上まで来ると、ドーン人達のマントや草が勢いよく舞い上がった。鎖で繋がれた三隻の船が、風を受けて空を飛んでいる。その圧倒的な光景に船の陰に入ったゴンは開いた口が塞がらない。船の旗にはファルブル家の紋章が入り、若い男と髭の男が船の先頭で酒瓶を持ってはしゃいでいた。

「うわははは! どーだ俺のアイデアは!! これで黄金までひとっ飛びだぜ!!」

「こりゃあいいですねえ! つまみが転がっちまうのが難点ですが!!」

 左後ろの船で両腕を組んで立っている黒髪の女性兵士が見えた。

「あ。あれは……リン・ファルブル!」

 独特の戦術で頭角を現したリン・ファルブルは元ドーン国の人間にとって倒さなければならない相手である。リンはゴン達にちらりと一瞥をくれただけで視線を前方に戻し、風で揺れる髪などお構いなしに叫んだ。

「もうすぐ麓だ! あの戦場は無視し、このまま入口まで突っ込んで入口周辺を素早く確保する!総員戦闘準備!! 手筈通りにやれ!」

「はっ!!」

 船が通過すると、風圧をくらったせいで馬達が興奮してまともに進めず、ドーン人達はその場に留まらざるを得なかった。

「何だあの技術は……あんなのに勝てる訳がねえ」

 意気消沈する兵士達をリーダーが引き締めた。

「いや……諦めるのは早い。奴等は目立つ。周りの者全員を敵に回すだろう。俺達は最後に黄金を手に入れればそれでいいんだ。馬が落ち着いたら行くぞ。奴等に気を取られている敵を後ろから攻撃して突破する。奴等を利用するんだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドーン人としてのゴン達の気持ちも、ちょっとわからなくはない……かなぁ(;´・ω・)
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