空の王者と味惑の魔人 四
ユリアン達が馬を走らせ、夜が明ける頃にハクトウの街の外壁まで辿り着いた。街に入るための橋は降りているが、門の前にいた兵士達はユリアン達を見て野党の襲撃か何かと思ったらしく、慌てて武器を持って出て来て橋を塞いで彼らを止めた。
「まっ待て! 止まれ! 何者だ貴様ら!」
「よっお勤めご苦労! ちょっと通してくれ」
「なっならん!」
「お袋に会いに来たんだよ」
「お袋だと?」
「リン・ファルブルだよ」
兵士達は騒ぎ出した。橋にいる一般市民達も騒ぎを聞きつけ集まって来た。
「ファルブル……!? ま、まさか……」
「俺はユリアン・ファルブルだ。通ってもいいよな?」
「ファ……ファルブル家の!? し、失礼しました!!」
「い、いやちょっと待て! 本当かどうか分からんだろうが! どう見ても野……王家の方には見えない格好でございましてそのう……」
ユリアンと私兵達はお互いを見合って笑い出した。
「うわっはっは!! ユリアン様! そらそうだ!! どう見ても王族には見えねえわ!!」
「あははは! ジャックお前失礼だぞ! それが王族に対する態度か!」
「眉毛だってこーんなに細くしちゃって! 悪党顔ですよ!」
「お前に言われたくねえよ! 山賊の親玉みたいなツラしやがって!」
ユリアン達は行く先々でよくある展開らしく、そんな時はお互い罵り合って笑うのが常のようだ。
ひとしきり笑った後ユリアンは兵士に向き直った。
「じゃ、見せてやるか」
「はい」
ユリアンは後ろにいる私兵に合図をすると、私兵は馬にくくりつけてあった旗を掲げた。昇った朝日が掲げた旗の後ろで輝いている。両肩に茨やツタが絡まっている盾が描かれていて、盾の中は二つに区切られている。右に魔女の黒い帽子、左に剣が描かれたその紋章は、フェルトが独立して以来新たなファルブル家の紋章としてリンの部隊も使っている物だった。風でたなびいているその紋章は、圧倒的な力を持つファルブル家の象徴として領土内では絶対的な物である。
「こ、これは……失礼しました……!」
「手間取らせて悪いな。行くぞ!」
「おう!」
兵士達や市民が道を空け皆が見守る中、橋の中央をユリアン達は堂々と馬を進めた。
ハクトウの街は、ビルギッタから見て西に位置し、内海を港で挟むようにして作られた町である。船を出して内海の向こう側に行く事が可能で、その向こう側もハクトウの一部だ。波は穏やかなため、海側にはカフェやレストランが連なり、観光の街としても人気がある。もともとドーン国の街だった頃はその観光収入が国の経済を支えていたが、フェルトの一部となってからは自治を認可された事によりその収入の一部を自分の街に還元できるようになったことで近年賑やかになった。
石と煉瓦を白い漆喰で塗り固めた壁と、カラフルな煉瓦の屋根が見る者を楽しませる。街道に沿って家と店が綺麗に建ち並ぶ街に馬で入ると、ユリアンはあくびを噛み殺しながら宿を探し始めた。
「ふあー。眠くなってきたけどその前にメシ食いてえなあ」
「海側にきれいなレストランがあるホテルがあるからそこがおすすめですぜ」
「マジ? じゃあそこ行こうぜ。案内してくれ」
「リン様の所じゃなくてよろしいので?」
「お袋がいる所でお姉ちゃんなんか呼んで騒げるかよ。さっ行こうぜ」
「ういす」
馬のため市場には入らず、石煉瓦でできた街道を通って宿の方へ進むユリアン達を、建物の陰から見つめる男達がいた。




