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空の王者と味惑の魔人 一
「今だ! 前進しろ!!」
「よし行くぞお前等!!」
「おう!」
山の麓では手綱を引いて駆ける馬の音、銃声、男達の怒号が飛び交っている。
緑の芝生が一面に生い茂り、まるで羊がのどかに草を食んでいそうなこの山の広大な麓では現在、多くの塹壕や土嚢が作られ、様々な勢力の兵士、賊達が剣や銃を持ってもぐら叩きのように頭を出しては別の拠点を襲い、また別の勢力が現れるとそこから矢や銃弾が放たれ、皆が山腹にある洞窟を目指している。そしてそれは他の拠点からの銃撃や弓矢により邪魔され、いつまでも達成できる者が現れない。この場所ではそんな終わらない戦いが繰り広げられていた。
そんな狂乱を避けるようにこの近くにひっそりと建てられた小屋には、木材を十字に組んで作られた一人の男の墓がある。墓碑銘にはマイケルという、その地方では珍しくもない名の男が刻まれていたが、彼の名は若くして世界中に知られる事になった。この戦いの火種を作った男として、である。
彼はこの大陸で初めて山の山腹にある洞窟で黄金を発見し、そしてそれを奪われた不運な冒険家だった。




