フレイムタン ニ
カイル達はロキと護衛の兵士達を連れてリア国へ出発した。ジンは留守の間にシャロンと行動を共にするよう命じられた。
(どこ行ったのかなシャロン)
ジンが王宮の中を歩く。この王宮は十四年前に建設が始まり、完成してからまだ間も無い。壁の石でできた柱も真っ白だ。王宮が建設された後、あらゆる技術の知識に精通しているシャロンは王宮内や街のあちこちに駆り出され、一度消えるとなかなか捕まらなかった。ジンは若い兵士に声を掛けた。
「ねえマイケル、シャロンがどこにいるか知らない?」
「シャロン様なら今日は街の薬局の方へ出掛けておりますよ」
「ああ、東区にある所かな?」
「ええ」
「じゃあ街に行って来るよ。何かあったら薬局にいるからそう伝えて」
「分かりました」
「うんありがとう」
そう言うとジンは街へ向かって歩き出した。東区の病院でジンは産まれた。薬局はその目の前の道を挟んだ反対側にあり、病院からの薬を処方している。最も保険が無いため金持ちしか利用できないが。
ジンが門を出て中心街に降り立った。護衛は伴っていない。ジンは王子にも関わらず、一人で行動していても一度も襲われたり厄介事に巻き込まれた事は無い。治安が良いためとジンは思っていたが本当の理由は違う。ロキの子供にちょっかいを出そうなんていう輩はこの街にはいないのだ。
「そこ、調剤棚はそっちなんでしょう? じゃあ書類はこっちに置かないと。窓は透明じゃなければ駄目よ」
ジンが薬局に入るとシャロンの指示する声が飛んで来た。
「シャロン」
「あらジン! よくここにいるって分かったわね」
シャロンは白衣の袖をまくって手を洗うとジンの所に歩いて来た。金髪の長い髪が肩の辺りでくりっとカーブしていて、整った顔にしなやかな体で白衣を着ているとモデルが研究者の格好をしているかのようだ。
「マイケルに聞いたんだ」
「あらそう。この薬局の設備構造いい加減なんだから! 将軍は許してもこれからは駄目よ。ちゃんとしなきゃ」
ジンは潔癖だなぁとプリプリしているシャロンを冷やかした。
「カイルがシャロンに勉強教わってろってさ。リア国に出発したんだ」
「ふうん。大変ねえ王様は。まあロキがいれば大丈夫でしょう」
「カイルも言ってた。ロキは強いから大丈夫だって。そうは見えないけどなあ」
「ま、人の強さは色々あるから。お昼まだでしょ? ご飯食べてからにしましょう」
「そうだね。ところでどうして白衣を着ているの?」
「え?」
「だって別にシャロンは白衣を着る必要無いよね?」
シャロンは顔を赤らめながら白衣を脱いだ。
「いや……着てみたいじゃない?」
中心街の酒場に二人が来ると化粧の派手な店員が出て来た。
「よおロキの息子」
「こんにちはレイチェル。元気?」
「うん、今日は無敵コンビね」
「何よそれ」
シャロンは今は王宮に住んでいるが、子供の時はこの近くの屋敷に住んでいた。この店員もその頃からここで働いており、シャロンが子供の時から知っている。
「ランチの定食でいいわね?」
「うん」
その時男の兵士が一人入って来た。レイチェルと目配せすると少し離れた席に座った。シャロンはそのやり取りに気付いた。
「何? 知り合い?」
「ん? あーいや。でもよく見る顔だから」
「ふうん」
ジンも兵士を見ると金髪の兵士は目つきが鋭く、一般の兵士とは少し違う感じがした。ジンの視線に気付くと兵士は微笑みながらジンにお辞儀した。
「嫌な感じはしないねあの人」
「そう?」
「うん」
レイチェルはほっとした表情を見せた。
「ダンよ」
「え?」
「あの人の名前。ダンっていうの」
シャロンは鼻を鳴らした。
「何だ、やっぱり知り合いじゃない!」
「ふふ、ごめんね。彼はね……ジン、あなたのボディーガードなの。ずっとあなたを護っているのよ」
「あ、そうなの? 知らなかったなあ」
「ロキの下で働いて以来ずっとなんだって」
「へぇー」
シャロンはダンをこっそりと眺めた。どこかで見た事のある顔だったが思い出せなかった。




