ぬいぐるみの鬼 十二
「行って来る」
「気を付けてね」
ロキはラナをしっかりと抱き締めてからカイルと共に外に出て劇場の方へ向かった。昼を過ぎて既に一帯の封鎖が始まっている。バリケードが置かれ、兵士が立った場所を境に向こうの通りには人がいないようだ。バリケードの前には将軍が見えるのを期待して野次馬がひしめいている。ロキとカイルは人気が無い場所まで移動した。
「じゃあ頼む」
「気を付けろよ」
「ああ」
ロキがぬいぐるみに変化すると、カイルはロキを掴んで閉鎖されたエリアへ思い切り放り投げた。ロキがどこかの建物のオレンジ色の屋根にポインとバウンドしてから地上にポトリと落ちると、窓から見られるのを警戒して寝たまま横にコロコロと転がり、建物の間で人間に戻った。
(ここは……バーク通りか)
辺りに人の気配は全く無い。窓も開けてはいけないと指示されているのだろう。窓から外を覗いている人もいなかった。普段賑やかなバーク通りが不気味な程静かだった。将軍が通るルートはもう少し北だ。ロキは建物伝いにバーク通りを移動して将軍が通る予定の建物の横に行き、建物の壁を背にして目を瞑って深呼吸した。
(ここを南下して来るはずだ)
目を開けて通りを覗くとルートの終点の方から少しずつ移動してくる人物が見えた。
「あれは……」
その人物がロキがいる反対側の建物の横まで来て物陰にいるロキに気付いた。ロキは囁き声で叫んだ。
「サソリ?」
「ロキ、ああ良かった」
サソリも囁き返すと安堵の表情を浮かべてロキを手招きした。ロキは周囲を確認してからサソリがいる方へ合流した。
「サソリ、ここで何してる?」
「将軍の警備情報を入手したんでしょう? カイルから聞いていたんです。間に合って良かった。ここにはあなた一人で?」
「ああ俺だけだ」
サソリは懐から地図を出した。ロキと微妙に違うルートが書かれている。
「ルートが直前で変えられたようなんです。これが最新の地図です、見てください」
「なに?」
「ここは通らない。チャーリー通りに移動しましょう」
「分かった」
二人はバーク通りとチャーリー通りの間にある細い道を抜けてチャーリー通りに向かった。
「そこで止まって」
サソリに言われてロキは建物の間の陰になっている場所で足を止めた。建物の壁に左手を突いて覗くと、チャーリー通りにアイスクリーム屋が使っている大きなリアカーが停まっている。
(例のアイスクリーム屋か)
サソリも周囲を見回して確認してからロキの後ろに移動した。その直後にロキの後頭部に衝撃があった。
「ぐっ!」
ロキが地面に跪き、後頭部を押さえて振り返るとサソリが警棒を振り上げていた。
「サ、サソリ?」
サソリが警棒を一閃し、頭に再び衝撃が走ってロキの意識が途切れた。




