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大根王子 二

 某日未明。


「仕事が入ったって?」

 薄暗い部屋に黒いフード付きのマントを羽織った男が静かに入ってきた。中にはひとり事務机で仕事をしている男がいる。事務をしている男の腕にはサソリの入れ墨が入っている。

「アサヒか」

 サソリの男は顔を上げると、仕入れた情報が書かれている書類をフードの男に渡した。

「今度はデカい仕事だぞ。ファルブル家のゴタゴタから始まった話なんだが、王の暗殺を企ててる連中がわかったんだ」

「王の暗殺?」

 アサヒの表情はフードに隠れて伺い知ることはできない。サソリがペンを置いて椅子に背を預けた。

「ああ。話はこうだ。ファルブル家の長男アルベルトは降魔の儀式で役に立たない魔法を継承し、失望した王に追放された。その後王は跡継ぎを得るため昔作った隠し子グレイを探し出して連れて来たんだが、こいつもまた王家には相応しくない魔法をもらっちまったんだ。そして王はこいつも追放しちまったんだがこれが悪手だったんだな」

「グレイの魔法か?」

「その通り。グレイの魔法は当時バカにされていたんだが実は凶悪な魔法だったらしい。グレイは自分の才能に気付いていて、暗殺や強盗で生計を立てるようになった。そして大きくなったグレイがいよいよ王と感動のご対面ってわけだ。決行は三日後の夜だ」

「ふうん。で、それがどうした? 捨てたガキに暗殺されようが王の因果応報ってやつだろ。放っておけばいいんじゃないのか?」

「ところが首謀者はグレイじゃない。裏で手を引いているのはウォーケンだ」

「確かか?」

「間違いないだろう。証拠もある。奴とグレイのやり取りが書かれた手紙だ。王がヘルデ奪還の功績をねぎらうために王宮にウォーケンを招くんだが、それに乗じてグレイを使って王を暗殺するつもりらしい。そしてそのまま領土を乗っ取るつもりでいる。

 アサヒ、あんたの仕事は王の暗殺の阻止だ。もう間に合わないかもしれない。アルベルト王子ももう王都に向かっている。もし間に合えば王にウォーケンの企みを伝え、ウォーケンを失脚させてほしいんだ。奴には政治の舞台から消えてもらう。これを王に渡せば話を聞いてくれるはずだ」

 アサヒはサソリの形をしたバッジを受け取った。

「あんた王とも繋がってたのか」

「正義の味方かどうかは目下考え中だ」

 アサヒは少し笑みをこぼし、しばし考えてから口を開いた。

「ヘルデの件については何か分かっているのか?」

「ヘルデを襲ったのはグレイ、そして手を引いていたのはやはりウォーケンだ」

「なんだと?」

 サソリは立ち上がり、壁に貼られた王都やヘルデの位置関係を表す地図を眺めた。

「ヘルデは王都に最も近く、石塀でマス目状に区切られた自由都市だった。正攻法では落とすのは難しい。何をしたかはわからんがグレイの魔法で都市を破壊し、その後海賊に占領されたヘルデをウォーケンが奪還した。そしてそのままウォーケンは治安維持を名目としてヘルデの領主となったんだ」

「王都を狙って自分の都合で野盗と海賊を襲わせたってのか」

「もはやウォーケンには迷いはない。グレイに王を暗殺させ、奴の手下がゴロツキを雇って街を破壊させる、自分は王宮に兵を待機させて高みの見物をしてから英雄様が出陣て手筈になっている。とんでもねえ悪党だよ奴は」

 アサヒはサソリをまっすぐ見つめた。

「王が無事ならウォーケンも大人しく引き下がるだろう。グレイさえ止めれば良さそうだな」

「そうだ。王の雨雲を操る力はこの国の発展にはまだまだ必要だ。王さえ生きてりゃいい」

「わかった」

「今回は王宮なんだ。あまり無茶はするなよ」

「グレイを仕留めるのは俺だ。報酬たんまり用意しとけよ」

 サソリは立ち去ろうとしたアサヒに声をかけた。

「ああそれから今回はアルベルト王子が味方だ。うまくやってくれ。書類に王子の魔法についても書いてある」

 書類に目を通しながらアサヒが答えた。

「ああ、顔も知ってるし何とかなるだろう。ん、なんだこりゃ? 大根?」

「ああ。大根を刃に変える魔法なんだそうだ」

 アサヒは何かを思い出したように一人でうなずいた。

「ああそういうことか。なるほどね。こいつはすげえ魔法だな」


 そして時は遡る……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第二話の時点でだいたいの人間関係がまるっと分かって、アサヒとアルベルトの目的(目標?)が明確で、とってもシンプルに分かりやすい!
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