閃光王子 十八
王宮のバルコニーにアラン、グリードが現れると王宮前の民衆はどよめき、リポーターがカメラを向け、その様子は緊急生放送でテレビで伝えられた。アランが口を開いた。
「フェルト国、そしてヴェイン公国、ドーン連邦の国民の皆さんにお伝えしたい事があります。ヴェイン公はフェルト国とファルブル家についての先日の主張を撤回する事としました。ヴェイン公は御自分の立場を顧みず、ただ両国の平和の為に自らの過ちを認め、油田から軍を撤退させ、フェルト国と敵対しない事を確約してくださいました。私はヴェイン公のこの勇気ある御決断を支持したい!」
民衆から拍手が湧き起きる。アランはグリードにマイクを渡した。
「今回、我が国の事を想う余りに先走り、強引な手段に出た事を恥じている。我が国とフェルト国との緊張が最大限に高まり、もはや戦って雌雄を決する他無いと誰もが考えていた時、ファルブル家の長男レオン君はなんと単身私の屋敷に飛び込んで来てまったく新しい選択肢を提案してくれたのだ。私は彼の勇気を称え、その提案を呑もうと思う。私の娘、メイと彼との結婚を認め、祝福しよう」
民衆から拍手と歓声が沸き起こり、たっぷり時間を取ってからグリードは演説を締めた。
「フェルト国民の皆さん、我が国の皆さん……どうか私にもう一度だけお互いの国の為、尽力する機会を与えて欲しい。二人のようにお互いに手を取り合い、新しい時代のために邁進して行きたい!」
紙吹雪が飛び、王宮は拍手と歓声に包まれ、後日お互いの国で平和を祝福するパレードが行われる事になった。
「ふざけるなッ!」
パーン大佐は油田に展開した軍事キャンプの指令室で机に拳を叩き付けた。
「掌を返しやがってあのボンクラが! その上ファルブル家のガキが俺の妻になる予定だった女と結婚だと? どこまでコケにすれば気が済むんだあのクズ共! 俺は絶対に退かんッ!!」
パーン大佐の私怨によりドーン連邦軍は撤退する事は無く、フェルト軍とヴェイン公国軍が組んだと知って士気が下がり切った連邦軍とフェルト国軍が睨み合う形となった。
夜が明けようとしている。
油田にファルブル家の飛行船が現れた。フェルト国軍から歓声が上がり、連邦軍に緊張が走った。ダイヤモンドのような輝きを放つレオン・ファルブルが飛行船のバルコニーに現れ、夜明けの光を背景にして叫んだ。
「俺はファルブル家十七代目当主、レオン・ファルブルだ! フェルト国の為、そして正義の為にこの戦いを終わらせる時が来た! ドーン連邦のパーン大佐は卑劣な戦略を用いて俺達ファルブル家とフェルトを混沌に陥れようとした。俺はそんな物には負けないッ! どんな暗闇も俺が照らしてやる! 俺達は常にあの光と共にある!」
レオンが拳を突き上げ、アルベルトが部隊を率いて現れるとフェルト国軍の興奮は最高潮に達した。
ドーン連邦軍はその光景を見て戦意を無くし、カーテンを開けるかのようにパーン大佐への道が開いて行く。パーン大佐は歯ぎしりして怒りを露わにした。
「どいつもこいつも……! いいだろう、我が父ウォーケンの仇、今晴らす時!」
パーン・ウォーケンはフレイムランチャーを担いだ。
アルベルトは肘から展開した銃を右に、腰のタンクと繋がった細長い銃身を持った銀色の機械を左手に持って叫んだ。
「出撃ッ!」
アルベルト達がパーン大佐へ向けて空を滑空して来る。
「積年の恨み! 父の仇だ! 食らえィ!」
パーンはフレイムランチャーをアルベルトに向かって撃つと、轟音と共に砲弾が飛んで行く。アルベルトが左手の機械に付いた引き金を引くと銃身から勢いよく水が放たれ、砲弾は水圧で大佐の背後へゴロゴロと吹っ飛んで行き、湿って火炎は不発に終わった。
「あれ!?」
「対策済みだッ!」
「馬鹿なァーッ!」
アルベルトはパーンを射殺した。
「戦は終わりだ! 勝鬨を上げろ!」
アルベルト達が勝鬨を上げると、ドーン連邦軍は武器を捨てあっさりと投降した。
フェルト国の王宮を使って挙げたレオンとメイの結婚式はテレビで放送され、世界中から祝福された。フェルト国とファルブル家、そしてヴェイン公国の友好関係を世界にアピールする大きな機会となった。
ドーン連邦は今回の騒動をパーン大佐の暗躍によって起きた混乱であると説明したが、アランは大佐の行動は国が先に石油の強奪に向かって動き、それに続く動きだと知って受け付けず、戦後賠償を求めた。ドーン連邦の中でもハクトウはあくまで石油はドーンの物、カルは北大陸で分け合う物だとして反発し合うようになった。
ある暖かい日。
その日、ファルブル家はインターネットのサイトに載せる画像の撮影のため、飛行船でフェルト国の王宮前の広場に集まった。
「ほら。アルベルト、足元に気を付けて」
「ああ、ありがとう」
白髪のカタリナに手を引かれながら、杖を突いたアルベルトが飛行船のタラップを降りた。ゆっくりと広場を歩いて昔を懐かしんだ。
「ここは変わらないな」
「そうね。あ、マーカスよほら。もう来てたのね」
マーカスと呼ばれたスーツを着たオールバックの若者が葉巻を咥えながら手を振っている。
「カジノでずいぶん無茶してるって聞いたけど大丈夫なのか?」
「あの子がやってるのは博打じゃないから大丈夫よ」
「ふうん」
レオンとアランが広場で語り合っている。二人はアルベルトとカタリナに手を振った。
「あ、父上が来た」
「やあアルベルト様。元気かい?」
「元気だよ。足はちょっと弱くなったけどね。君こそ」
「僕は平気だけど。僕も結婚するべきだったな。最近は家族がいないから寂しくてね」
「今度近くに引っ越すんだ。また一緒に遊べるな」
「ああ」
三脚に乗せた小さなカメラの前で、一同は王宮をバックに横一列に置かれた椅子に座った。アルベルトとカタリナが中央、レオンとメイがアルベルトの横に、レオンの息子であるマーカスとその妻がカタリナの横に座った。マーカスの子供達が犬を抱きながらワイワイと騒いでいる。
「ほらお前等、ちゃんと座れ。全力でカッコつけろよ、目線はあそこだ。ずっと残るらしいからな」
「アイー!」
「だー!」
アルベルトはその様子を見て微笑んでいる。アランがカメラの前で声をかけた。
「じゃあ撮りますよー!」
アランがカメラのシャッターを切るとカシャッという音がした。
その写真は、世界を最も動かした一族として後世の資料に何度も登場する一枚となった。
特に中央に座るアルベルト・ファルブルは、畏怖と敬意を込めて人々から『大根王子』と呼ばれた。