楽園解放 十
イサベラは砂浜に座り、海を一人で眺めていた。アルベルトが来ると、イサベラは立ち上がった。
「無事だったのですね。良かった」
「うん。あれからヴェイン公国に辿り着いて、無事国に帰る事ができた。すべて君のおかげだ」
「いえ……」
イサベラの目から涙があふれて来た。彼女は顔を両手で覆って泣き、アルベルトは優しく抱きしめた。
「遅くなってすまなかった」
「これからどうする? 島に帰るなら送って行くよ」
「いえ。もうラウルも、あの日の暮らしも帰って来ない。島に帰る気にはなれません」
「そうだな……」
「今、パン屋のおかみさんに世話になっているんです。筋がいいって言ってくれて。ラウルに逃がしてもらってここに辿り着いてから、周囲の人にも優しくしてもらいました。いつか自分のお店が持てたらなって思ってます。私はここで生きていくつもりです」
アルベルトは頷いた。
「そうだな。僕もここの暮らしが二度と脅かされないよう、力を貸していくつもりだ」
波が静かな音を立てる。潮風がイサベラの髪を揺らした。
「あの島での暮らしは穏やかで幸せだったけど、もう失われてしまった。ここも昔は楽園と呼ばれていたそうです。海賊達のせいでしばらく世界から断絶されてしまっていたけど、あなたがついに解放してくれた」
「これからはこの楽園を守っていかないとね」
「ええ」
イサベラは街の方に振り返ると、少し微笑んだ。
「彼等ならきっと大丈夫」
アルベルトの船から連絡の兵士が近付いて来るのが見えた。
「出航の準備ができたみたいだ。僕はそろそろ行くよ」
「お元気で」
「君も」
二人は握手して、静かに楽園の解放を祝った。
こうして、アルベルトはついに世界中の虐げられていた人達を全て解放し、彼に長男が誕生すると新しい時代が始まった。