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楽園解放 九

 オルスの一族、コモリは器に浮いた世界の葉っぱが大きく揺れるのを見た。そして、レジスタンスに使いを出し、弟子に書き留めるように命じると語り出した。


『光が来る。それは太陽の光を受けて育った光で、あちこちで同時に輝き出す。北から現れ、光を伴う彼は本物の王と言われる。偽物の王ではない。心せよ。ついにそれを正される時が来る。』


 北世界からやって来たアルベルト達が海賊達を見つけると、船から大根の水を飛ばして海賊船を両断して行った。残った海賊達は、海戦では不利と見て、普段アジトにしていた島に上陸してアルベルト達を待ち受けた。

 レジスタンスの若者達は、大根でコーティングした服を着て、港の倉庫から双眼鏡で海の様子を見ていた。

「本当に来た……! コモリの言った通りだ!」

「みんな準備はできているな?」

 倉庫に勢ぞろいした若者達は、長年この日が来るのを待っていた。銃を握りしめて待機している。


 アルベルト達が船に上陸すると、以前の海賊達を倒した時のように大根魔法で武装した。光り輝く騎士達が海賊達に向かって発砲を開始した。


『国の周りを泳ぐ悪魔達は光の前に消え失せる。海が割れ、悪魔達が消え、剥き出しになったオモチャの兵隊は、彼等の光に飲み込まれる。若き光が海岸から希望と共に現れ、その声は大きくなる。彼女の涙は拭われる事は無いが、この長い悪夢は終わるのだ。』


 アルベルトが魔法を使った時、レジスタンスの若者達の服がキン!と音がして硬質化した。

「よし! 装備ができたぞ! 機は熟した! 行くぞ! 王を倒すんだ!」

「オオーッ!!」

 若者達は銃を手に取り、倉庫から飛び出して王宮を目指した。「自由を!」の旗を掲げ、それを見た他の国民も参加して一つの大きなうねりとなり、広場に集まった群衆は自由を叫んで旗を振った。群衆の声援を受け、レジスタンスの若者達は王宮を目指した。

 王宮で海賊とアルベルト軍の戦いを見ていた王は、広場の騒ぎを聞きつけて狼狽えた。

「反乱だと!?」

「海賊達が出払ってる隙を狙って来たようです! レジスタンスがこちらに向かって来ます!」

「兵を使って奴等を鎮圧しろ! 発砲してもかまわん!」

「ハッ!」

 兵士達は銃を取り、次々と馬に乗って出て行った。


 若者達が街を進んでいると、兵士達がやって来た。

「おでましだ」

 兵士達が馬を止め、両陣営はお互いに睨み合った。馬の首を振る音や金具のこすれる音だけがあたりに響く。しばらくして兵の隊長が腕を上げると、若者達も覚悟を決めて叫んだ。

「撃て撃てぇ!」

「うおおーッ!」

 一斉に発砲が開始されると、撃たれた兵士達は馬から落ち、若者達に当たった銃弾はバラバラに斬り裂かれて地面に落ちた。若者達は自分の体を見て笑った。

「すげえ! 本当に銃をくらっても何でもないぜ!」

「どんどん撃て! ここで兵士の数を減らすんだ!」

 通りに銃声が鳴り響き、劣勢に立たされた兵士達は王宮まで退却した。


 王宮前で兵士達がバリケードを作ってイサベラ達を待ち構えた。

 兵士達が銃を構えて待っていると、民衆を味方に付けたレジスタンスがかけ声と共に進んで来るのが見えた。

 イサベラがレジスタンスの先頭に向かって叫んだ。

「バリケードに突っ込んで! あれ自体を服で斬り裂くのよ!」

「分かったぜ!」

 若者達は兵士達を撃ちながらバリケードに突っ込んだ。バリケードは大根服の前に紙切れのように切断されて音を立てて崩れ落ちた。兵士達は銃で撃ったが効果は無い。

「な、何だあいつらは!? 銃が効かない!」

「バケモンだ! 逃げろ!」

 兵士が引いたのを見て民衆は王宮になだれ込んだ。


「あらかた片付いたな」

 アサヒが船の上から双眼鏡を覗きながら呟いた。アルベルト達が森の方から戻って来るのが見えた。

「ホーク、王子を本土に行かせて俺達はこの島を片付けよう」

「分かった」

 アサヒは本土に双眼鏡を向けた。王宮のあたりで民衆が旗を振って歌っているのが見える。

「イサベラの方も上手く行ったみたいだな。ずいぶんと頑張ってくれた」

 ホークは潮風を受けながら言った。

「王子を助けてくれたんだ。大根くらい安いもんさ」

 アサヒがホークを見ると、ホークはどこか悲しそうだった。

「平和に暮らしてたのに海賊に人生を狂わされたんだ。動機は十分さ。危ないから戦いは俺達に任せろって言ったんだが……」

「戦わずにはいられなかったと」

「同じように苦しんでいる人達を見て我慢ができなかったそうだ」

「そうか」


 アルベルトが本土に上陸し、人々は海賊を駆逐した世界最強の若き王が行進して来るのを歓声で迎えた。そしてレジスタンスの若者達と固い握手を交わし、フェルトからの友好と民主主義による国の誕生を祝った。独裁からの解放を象徴する光景に人々はいつまでも喜び歌を歌った。

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