楽園解放 七
美しい女海賊ジョセフィーヌが台頭すると、その名は本土の王まで届き、看過できなくなった王は一度ジョセフィーヌと対面する事にした。しかしその時の王、ピエールはジョセフィーヌを一度目にした途端、完全にジョセフィーヌの虜になってしまい、それに気付いたジョセフィーヌは王に取り入った。二人は共謀して贅沢三昧な生活を始め、国民はその犠牲となり悪政を敷かれる事となった。ジョセフィーヌの部下の海賊達が他国の商船を積極的に襲うようになり、王も海賊行為を黙認するようになると、国は孤立を深めた。
この状態がジョセフィーヌが死去するまで続くと、息子のジョンも贅沢な生活を手放すのが嫌になり、そして次の代へ、次の代へと続いた結果、利益を徴収する事で周辺国への海賊行為を黙認する王の独裁という体制ができあがった。周囲の国は海賊のせいで本土に近付けないため、国民は苦しい生活を強いられた。
夜の港に数人の青年達が姿を現した。そして倉庫に入ると、薄暗い倉庫の中で銃を持った男達が待ち受けていた。男達は銃を青年達に向けた。
「合言葉は?」
「ラウルと桂剥き」
青年達が答えると、椅子に座っている男が手を上げ、銃が降ろされた。
「用意したぞ。新鮮な大根だ」
コンテナの蓋を開けると、保冷剤と共に大根がたっぷりと入っていた。
「関税を通すためにあえて防具に加工せずに持って来た。これをすりおろして水に混ぜ、海水で冷やして保存しておけ。いざという時に服に塗って使うんだ」
「着っ放しでは駄目なのか?」
「魔法で刃に変わる前に雨で流されたり、熱で傷み切ってしまったら効き目が無くなる。アルベルト王が魔法を使う直前に着るのが理想的だ」
「なるほど、分かった」
青年達が頷いた。しかし一人は納得していないようだった。
「しかし、どうも信じられないな。本当にこんな野菜一つで戦えるもんなのか? ドミトリの大冒険じゃあるまいし、魔法が実在するって言われてもな……」
青年達が見合わせると、その中の一人の女性が言った。
「大丈夫よ。これがあれば間違いなく上手くいくわ。ドミトリの大冒険はフィクションの絵本だけど、ファルブル家は実在する。アルベルト王が島で海賊達を倒した時、私はその場にいたもの」
椅子に座った男は銃を揺らして笑った。
「その通り。こんなオモチャでは勝負にならんよ。大根は現在、地上最強の兵器として使われる野菜だ。北大陸ではその数は厳正に管理されている。今回は特別にアルベルト王に縁のある御方から直々に譲っていただいたんだ。とても優しい御方でね。あなたが生きていると聞いて快く分けてくださった」
そう言って男は女性を指差した。
「その日が来たら、レジスタンスの君達は海岸で大根を塗った服を着て待つ。アルベルト王が海賊達を駆逐し、その時の魔法を受けて武装した君達が王を倒して自由を勝ち取る……そうだねイサベラ?」
イサベラは帽子を取って頷いた。