楽園解放 六
『第三章
ついに決戦の時がやって来ました。
前回の事があった数日後、前の人達が乗った商船が本土の近くにやって来て、挑戦を受けるとの返事と共に、場所と日時を教えてくれました。それならと、ドミトリは全海賊を率いて戦いに赴く事にしました。
ドミトリ達は指定された海域にやって来ました。ドミトリ達の船の旗がバタバタと海の風を受けて揺れています。
しばらく待っていると、向こうから一隻の小舟がやって来ました。とても小さく、どう見ても戦闘用の船ではありません。
「たまたま通りかかった船かな?」
ドミトリ達は首を傾げました。しかし海賊旗を見ても逃げる気が無いようです。あの舟にあの御方とやらが乗っているのでしょうか? ドミトリ達の剣や弓を持つ手に力が入ります。ときどき向こうからキラキラと何かが光に反射しているのが見えます。双眼鏡でこちらを確認しているようです。
やがて、向こうの舟から角笛の音が長く聴こえてきました。そして誰かが舟から海にポチャンと飛び込んだのが見えたのです。
「誰か飛び込んだぞ! 水中から何かしてくるかもしれん! 水中を偵察しろ!」
ドミトリは叫びました。部下が何人か飛び込み、遠くの様子をうかがいました。海の中はとても澄んでいますが特に何も見えません。
すると、その時、とてつもなく大きく低い、叫び声のような音が聴こえてきました。
「うわ!」
驚いて何人かが水面から顔を出しました。
「何か、何かが叫んでます!」
続いてまるで女性が悲鳴をあげるかのような長い鋭い声が水中に響き渡ります。耳を塞ぎながら聞いていた部下達はその神秘的な恐ろしい音に震えあがりました。
そして、とてつもなく大きい何かがものすごいスピードで迫ってくるのが見えると、部下達は慌てて船に戻って来ました。
「何かが来ます!」
「何かって?」
その時、ガツンという音と共に、近くの味方の船が水中から突き上げられて飛び上がり、宙を舞いました。
「え?」
船は空中で真っ二つに割れ、船の倍はある長さの生物が見えました。そして船の残骸と共にそれが着水すると、大きな水しぶきが上がりました。
「な、何なんだあれは!?」
大きな揺れでバランスを取るのに精一杯、ドミトリ達は海を覗く事もできません。他の船も同じように巨大生物に突き上げられて壊されていきます。ドミトリ達は知りませんでしたが、それはクジラという大きな生き物だったのです。クジラに船はどんどん壊され、仲間達は海に投げ出されていきました。
「くそう! このままやられてたまるか!」
ドミトリは、別の船が突き上げられてクジラが宙を舞う瞬間を見計らって、クジラに向かって銛を投げ付けました。すると銛が胴体に刺さる瞬間、クジラは女の人に突然姿を変えたのです。
「な、なに!?」
銛はむなしく宙を飛んで行きました。そして女の人が海に潜ると再び攻撃が始まりました。その人は自在に人に戻ったりクジラに変身したりする事で、攻撃をかわしながら船を壊す事ができるのです。ドミトリ達にできる事はありませんでした。ただ船が壊されるまで、大きく揺れる船の上でバランスを取る事くらいでした。そしてついにドミトリの船も壊され、ドミトリ達も海に投げ出されました。船の残骸を掴んで海の上をプカプカと浮かんでいると、例のあの恐ろしい叫び声が聴こえて来て、ドミトリ達はうなだれました。ドミトリ海賊団はたった一人に完敗してしまったのです。
決着が着いたのを見ると、商船がやって来て海賊達を引き上げてくれました。皆びしょびしょで抵抗する気も起きません。ドミトリも引き上げられ、武器も全て奪われると、クジラが舞い上がり、人の姿に戻って商船に着地しました。
クジラだった女の人は、濡れた長い黒髪をかき上げ、頭を軽く振ると、フーッと長い息を吐きました。その人はとても美人で、ドミトリに向かって微笑むと、ドミトリは思わずドキッとしてしまいました。
「私の勝ちね、王子」
第三章、終わり。』